第21話
2
薄暗い、殺風景な部屋の中で新聞を眺める一人の男。
男はやおら立ち上がるとそのままの姿勢でしばし思案した後、部屋を出て何処かへと駆けていった。
男が去った後、机の上に広げられたままの新聞にはこのような見出しが躍っていた。
『新たな都市伝説? 手首の無い女を目撃!』
3
科学準備室を後にした龍一郎は教室に戻ると、自分の席ではなく同じクラスの飛凰の席へ向かう。
朝の出来事から、まだ体調の優れない様子の飛凰のことが気がかりなのだ。
席では飛凰が机に突っ伏していた。
拳法の達人である彼女だが、こういったお化けや幽霊といったような話には滅法弱いのだ。
「食欲が無いわ」
「無理もないな」
飛凰と同じ視線の高さで話せるよう、その場にしゃがみこむ龍一郎。
「本当なの? 麻美衣さんが、その……死んでるっていうのは?」
飛凰は躊躇いながらも、押し出すようにしてその恐ろしい疑問を口にした。
「うん、おそらく間違い無い」
飛凰の目を見据えながらしっかりと伝える龍一郎。
「オレ、見たんだ。手首の傷が見る間に再生するのをね」
「そんなのって……」
信じられない、というような表情の飛凰。龍一郎は視線を外す。
「あの秘薬っていうのは、いったい何なの?」
「それはオレにもわからん」
しゃがみこみ、目を伏せたまま答える龍一郎。
「さっき、科学部の友達に調査を頼んできた。何かわかるかも」
そのとき、クラスメートの一人が龍一郎に声をかけた。
「おい頼成、オマエに客が来てるぞ」
龍一郎が振り向くと、教室のドアの前で血だらけのエプロンをまとった麻美衣が片手を振った。
4
「何しに来たんだよ、こんなトコに?」
龍一郎は麻美衣を連れて校舎の裏庭に来ていた。血まみれのエプロンなんていう、目立つ格好をしていたためだ。
あのまま教室で話していたら周囲からどんな誤解を受けるかわからない。
気丈にも飛凰まで付いて来ていた。揉め事になりそうな予感がして、龍一郎は頭が痛い。
「お弁当を持ってきたの」
ハンカチに包んだ弁当箱を掲げて麻美衣が言う。
「それだけ?」
呆れる龍一郎に対し、言い訳をするように麻美衣は続けた。
「当分お世話になるから、少しでも役に立ちたくて……」
「当分って……どういうコトよ?!」
やはり恐怖感があるのか、一歩引いていた飛凰だがたまらず前に出て声をあげる。
「他に行くところが無いもの」
多少の後ろめたさはあるのか、麻美衣は少しだけ俯く。
「だからって、若い男女が同居なんて……」
飛凰は感情を露わにして食い下がる。
「嫌っ! 駄目! 不潔よ、天地神明にかけて許せないわ」
「でも、こうなったのには彼に責任もあるのよ」
麻美衣は俯いたまま、小声で呟く。
「責任って、まさか……」
目を見開いて龍一郎に向き直る飛凰。
「ちょっと待て、何の話?!」
面食らった龍一郎が二の句を告げる前に飛凰は足を払い、地面に叩きつける。
「これ以上、不埒な行いを許すわけにはいかないわ」
「話を……」
飛凰は弁明しようとする龍一郎の胸ぐらを掴み、喉元に貫手を突きつけて宣告する。
「それから先は地獄で詫びなさい」
そして、飛凰は腕を勢いよく振り下ろす。
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