第3章

第20話


 1


「くつろいでくれ。ここは僕の専用室みたいなものだから」

「あぁ」


龍一郎はそういって部屋の中を見渡す。

科学準備室であるその部屋は、科学部の唯一の部員であるハルキが使っているのだという。

あちこちにプロレスラーや格闘家のポスターが貼られているところを見ると、かなり好き勝手に使っているようだ。

「悪いが、食事を摂りながら話を聞かせてもらうよ」

そう言いながらプロテインをビーカーへ入れると、実験用の撹拌機を使ってかき混ぜる。

「昼飯って……これだけか?」

「あぁ」

当然、というようにハルキが頷く。

「バランスが悪いんじゃない?」

ハルキは戸棚を開けると、自慢げにさまざまな錠剤を見せる。

「これが鉄分。これはカルシウム。これがアミノ酸で……こっちはマルチビタミン……」


「昼飯は?」

「これがそうだが?」

呆れる龍一郎をよそに新聞を広げて悠然と読み始めるハルキ。

またしてもスポーツ新聞だったが、その見出しの一つに龍一郎は仰天する。


『新たな都市伝説? 手首の無い女を目撃!』


思わず身を乗り出して見入ってしまう龍一郎に、怪訝な顔で尋ねるハルキ。

「で、相談って?」

龍一郎は我に返り、ポケットから秘薬の瓶を取り出す。

「こいつを調べてみて欲しいんだ」

受け取って、光にかざして見るハルキ。一見、ただの白い粉にしか見えない。

「何だい、これは?」

「それは……実を言うとよく分からないんだ」

龍一郎は慎重に考えながら返答する。

「南米の辺りを旅行してる母が送ってきた薬なんだが……科学雑誌なんかも読んでるオマエなら何かわかるかと思ってな」

頼られたことに気を良くしたのか、ハルキは得意げに鼻を鳴らす。

慣れた手つきで一部をプレパラートに取り出すと、早速顕微鏡にかけて観察する。

「何かの細菌かな? 仮死状態になってるみたいだ」

レンズから目を離すと、顎に手を当てて思案する。

「珍しい形状だけど、何処かで見たような……?」

「何かわかったら、なんでもいいから教えてくれ」

「あぁ、できる限り調べてみよう」

ハルキ自身も十分に好奇心をそそられた様子だ、これなら熱心に調べてくれるだろう。

再び顕微鏡を覗きこんでいたハルキが顔を上げて言った。

「でも明日以降になるね。今日はレスリング部の練習の日だから」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る