第19話


女と龍一郎の顔を見比べる飛凰。

「ふざけないで」

「本当だって、話を聞いてくれ!」

椅子に力をこめてくる飛凰に向け、叫ぶように言う龍一郎。

「お袋が送ってきた妙な薬があったろう、死者を甦らせる秘薬とかいう……」


「そういえば……でもどうしてそんなもの……」


「オマエが可愛がってた野良猫がいただろ、車にはねられて死んだんだよ」

猫と聞き、椅子を押さえる飛凰の手が一瞬止まる。

硬直した表情の飛凰を見て躊躇するが、龍一郎は話を続ける。

「学校へ行く坂道の、急カーブになってるところだ」

「そんな……」


「オレは埋葬して、夜になってからそこに薬を振りかけてみた」

「じゃあこの女の人は……?」

「推測だけど、さらにその下に埋められてた死体が甦ったんじゃないか」


飛凰が恐る恐るといったように視線を向けると、女は目を伏せる。

しかし、龍一郎の言葉を否定したりはしなかった。

「そんな……!」

顔から血の気が引き、後ろへ倒れかかる飛凰。

「危ない!」

女がすかさず抱きとめる。ハッとした飛凰は抱きとめられたその手首に目をやる。

「ひっ!」

悲鳴をあげて飛び退き、怯えた表情で逃げていく飛凰。

龍一郎は即座に椅子を跳ねのけて追いかける。

「待てよ」

玄関でうずくまる飛凰に追いついた龍一郎を、責めるような目で見つめ返す飛凰。

「どうしてあんなことを……?」

「つい、気になって……試さずにいられなかった」


「試すって……まさか?!」

龍一郎を見つめる飛凰の目が、疑いの色に染まる。龍一郎は懸命に否定した。

「違う違う! 猫はほんとうに自動車事故で死んだんだよ」


「そう……そうよね。いくらなんでも……」


龍一郎の言葉に、飛凰も少しほっとしたようだ。

「でも、どうして死んだ者を甦らせようなんて……」


黙りこむ龍一郎。どう答えていいか分からなかった。

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