第17話
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「おっ、こんなところに『悪魔のいけにえ』が……これは名作だ!」
麻美衣を台所へと案内した後、龍一郎は散らかったリビングを片づける。
散らかったビデオテープやDVDの整理を始めるが、タイトルの記されたラベルを眺めるばかりでなかなか手が動かない。
そんな折、台所から爆音が響き渡る。腹の底に響くようなエンジン音だ。
驚いてキッチンに駆けこむ龍一郎。そこには、チェーンソーを抱える麻美衣の姿が。
「何やってる?!」
龍一郎の怒鳴り声に、麻美衣はチェーンソーのスイッチを切る。やっと爆音が止まった。
「コレ、物置きで見つけたの。勝手に使っていいって言ったでしょう?」
「食材を使っていいと言ったんだ、オレは」
「包丁の切れ味が悪いと怪我の元だから」
「いやそれ包丁じゃないし。マグロの解体ショーでもするつもりかよ?」
「冷蔵庫に冷凍マグロは入ってなかったわ」
「だろうね……ウチの冷蔵庫はそんなに大型じゃないから」
仮にあったとしても、龍一郎はそれほどの魚好きでも大食漢でもない。人気の回転すし店を営業しているわけでもない。
「だから、食肉加工をしようと……」
まな板の上にはハムの塊がちょこんと載せられていた。
「というか、それは加工済みだろう」
「豚の大腿肉を塩漬けにして、煙で燻したものがあったわ。これを高熱の油に放り込んでタンパク質を変性させれば……」
「平たく言うと……ハムカツってこと?」
龍一郎はつい、カラッと揚がった熱々のハムカツを思い浮かべてしまう。切ったハムをそのまま食すより、このほうがずっと美味いだろう。
「まぁ、美味そうだけど」
「そう? じゃあ決まりね」
龍一郎が納得したと思い、麻美衣は再度チェーンソーのエンジンをかける。
「だからと言って、チェーンソーで切ることはないだろう!」
龍一郎が大声で制止するのも聞かずにハムを切ろうとするが、上手くいかない。回転する刃はハムを忽ち粉々にした。
「どうも切れすぎるみたい……」
麻美衣はエンジンを切り、ミンチ状に飛び散った肉片を眺めてしばし考え込む。
「この肉片をかき集めて、切り刻んだ玉葱と混ぜて揚げたらどうかしら?
「メンチカツも悪くないな……というか、頼むから普通に包丁を使ってくれ!」
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