第14話
悲鳴とともに飛凰の手からコップが滑り落ち、床でガラスが弾け散る。
パニックを起こして走る飛凰を追いかけ、龍一郎も玄関へ。
玄関から飛び出る飛凰。しかし外へ出た途端、立っていた何者かに衝突し、もんどりうって倒れた。
飛凰とぶつかった何者かも、弾き飛ばされてに転倒していた。泥に汚れた白衣をまとった顔色の悪い女だ。
「痛たた……」
激突の衝撃のせいか、パニックが去ったらしい飛凰が立ち上がる。
それを尻目に龍一郎は、恐る恐る見知らぬ女に問いかけた。
「えぇと……どちら様?」
「返して」
「は?」
「右手……私の」
尻もちをついたままの姿勢で女が右腕を上げると、そこには手首から先が無かった。
バタン、と龍一郎の背後から飛凰が昏倒する音が聞こえた。。
失神した飛凰を抱きかかえてリビングに運び、ソファに寝かせる龍一郎。
女は床の上の手首を拾い上げ、尋ねる。
「手を貸しましょうか?」
そう言う女は、右手の手首から先が無い。左手に、切断された右手を持っている。
「手伝いましょうか、っていう意味よ? 念のため」
目を瞑り、首を横に振る龍一郎。
「それより救急車を呼ばないと」
女は無視して飛凰の様子を診る。
「軽いショック症状みたいね。きっとすぐに良くなるわ」
「この子じゃない、アンタにだよ」
「おかまいなく、すぐに治るわ」
「そんなわけ……」
言いかけた龍一郎は、信じられないものを目のあたりにする。
女は右手の傷口に手首を当てがうと、そこから仄かな光が。
「それ、一体……」
龍一郎の言葉を制し、傷口を握る手に力を込める女。
「ちょっと待っててね……こんなもんかしら?」
骨が軋むような音、そして液体が沸騰するようなごぼごぼいう音が聞こえて……止んだ。
傷口に当てた手をゆっくりと開き、さっきまで千切れていた右手を開いたり握ったりしてみせる。
「ほら、この通り」
「冗談だろ? 夢でも見てるのか、オレは?」
自分の目が信じられない龍一郎。
「もう大丈夫、ちゃんと治ったわ」
「まさか、手術もしてないのに……。第一、切れた神経がそう簡単に治るわけが……
「本当よ、完璧にくっ付いたわ」
パタパタと、大げさに手を振ってみせる。
「普通の人とは、ちょっと違うの」
しかし、手首は再び外れて後方へすっ飛んでいく。
戸棚にぶち当たってガチャンと音を立てるのを聞いて、女はバツの悪そうな顔をする。
「ゴメンなさい……まだ完璧じゃなかったみたい」
手で目を覆う龍一郎。」
「あぁ、神様……」
女は再び傷口に手首を付けて、首を傾げる。
「まだ細胞の働きが完全じゃないのかしら……?」
龍一郎に向き直って尋ねる。
「ガムテープか何か、持ってない?」
「あぁ、無いこともないけど……その前に」
はるか先にするべきだった質問を、やっと口にする。
「えぇと……キミ何者?」
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