第11話


 2


ぞろぞろと、五月雨のように校舎から出てくる生徒達。その中に龍一郎の姿も。

「やれやれ、今日は平和に帰れる」

昨日とはうって変わって晴れ渡った空の下、校門へ向けて歩を進める。

グラウンドを眺めると女子サッカー部が練習をしている。紅白戦でもやっているようだ。


周りの選手たちの背丈を飛び越すほど高く跳躍し、飛凰が空中でシュートを放つ。

強力な回転がかかったボールはゴールキーパーの腕の中に収まるがものの、土煙を上げながら10メートルほど引きずった後でその身体を弾き飛ばしてゴールネットを揺らす。

同チームの選手達が駆け寄って来てハイタッチを交わす中、こちらの視線に気付いたのかふと立ち止まる飛凰。

遠くてはっきりとは分からないが、心なしか名残惜しそうな表情をしているようにも見える。

そんな飛凰に軽く片手を振って、龍一郎は校舎を後にする。


 3


「きゃっ、死体? 気持ち悪い……」

「かわいそう……捨て猫かしら?」


道ですれ違う女子生徒達の言葉がふと耳に入り、立ち止まる龍一郎。

ここは学校からの帰路の途中で、急な坂道になっている場所。さらには坂を登りきったところで急なカーブが突然顔を出す。

視界が悪く、自動車事故が起こるにはもってこいの場所。まして昨日は雨で路面の状態も悪かった。

そう、この場所はハルキが言っていた「事故の多発地帯」だ。

道路にはタイヤのスリップ痕が大きく残っている。やはり昨日、ここで事故があったのだろう。

ガードレールはひしゃげて、道路には砕けたランプのかけらが散らばっている。そして、道の傍らには白い毛で覆われた小さなかたまりが。

妙な胸騒ぎを感じ、駆け寄ってみる。猫のなきがらには、見覚えがあった。

「ウソだろ……」


その猫は紛れもなく、家の庭に居付いていた猫。

どうすることもできず、道の傍らにただ立ち尽くす。


 4


眠れない。布団の中で寝がえりを打つ。

眠ろうとするが、どうしても夕方の出来事を思い出してしまう。

道の傍らで冷たくなっていたいた、あの野良猫。

そこらに落ちていた枯れ枝を拾い、それを使って地面に穴を掘り、なきがらを埋めて土をかけてきた。

丁寧な埋葬とは言えないが、出来る限りのやったつもりだ。

それでもなお、生きて庭で遊んでいた猫の姿が思い出される。

飛凰とじゃれていたあの姿が。

猫を心配するあまり、ガラにもなく不安そうな飛凰の姿が脳裏を離れない。

ふと秘薬が気になる。

「死せり者に与えれば、たちどころに甦る神秘の霊薬……」


ふと、口に出して言葉にしてみる。

「バカバカしい、インチキに決まってる」

自嘲気味に呟いてみたが、その秘薬はテーブルの上で妖しく静かに存在感を放っていた。


たちどころに甦る神秘の霊薬。


意を決し、秘薬の瓶を掴んで外へ出ていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る