第1章

第4話


 1


「龍一郎、朝よ。早く起きなさい」

髪を束ねた少女が布団を揺する。中には同年代の少年がうつ伏せに眠っている。

「ん~、あと5分……」

龍一郎と呼ばれた少年は、布団のなかで眠たげな声をあげる。

「ほら、起きてってば」

「……」

少女が急かしても、布団の中から返事は無かった。


「5秒以内に起きないとヒドイわよ」

もぞもぞと布団が動くが、龍一郎は出てこない。

「5、4、3……」

少女は両手を拳に構え、両脚は微かに前後に跳ねるような独特のステップを踏み始める。

ちらり、と布団がめくれて龍一郎が顔を覗かせる。

「2、1……0!」

数え終わるやいなや鳥のような甲高い声をあげて跳躍。全体重をかけてベッドを踏みしめる。

「うわっ!」

とっさに脇に転がってかわす龍一郎を、さらに下段突きで追う少女。

「はっ!」

追撃をかわしつつ飛び起きる龍一郎。

「起きた! もう起きたよ!」


「言われてすぐに起きなさいよ」

少女はそう言って構えを解いてみせる。

「だからって無茶するなよ、殺す気か?」

少女が拳を下ろすのを見て、漸く安堵の表情を浮かべる。眠気はどこかへ飛んで行ってしまったようだ。

「全く……オハラと戦った時のブルース・リーかよ?」

「何の話?」

「『燃えよドラゴン』だよ、孤島の格闘大会でさ……」

「知らないわよ、そんな映画」


少女が部屋の中を見回す。そこは2階建て総合住宅の中の一室だ。6畳ばかりの部屋中にビデオやDVDが乱雑に積み上げられている。

「また夜更かししたのね」

「編集作業をしてたんだよ」

点けっぱなしのTVは真っ黒い画面が映り、隅には『ビデオ』と表示されていた

「ウソ! 映画を観てたくせに」

「まぁな。でも自主製作の映画のためさ、参考にしようと思って」

龍一郎は身体を伸ばしつつ、したり顔で言う。

「それに、夜中に観た方が趣がある映画ってあるだろ?」

「何それ?」

「『ナイト・オブ・ザ・リヴィングデッド』とかさ。ゾンビ映画の傑作!」

ゾンビ、と聞いて少女は顔をしかめる。

「信じられない! そんな気持ち悪いの観て……」

きびすを返して階下へ向かう少女。その後ろを追いながら呟く。

「それに……夜中の方が目が冴えるタチなんだよな」

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