第2話


「ここに、死体を、埋める……?」

強張った表情で、思わず地面を見る女の子。

「でも、なんでそんな噂が?」

「おそらく、ここが事故の多発地帯だからだろう」

「事故の多発?」

「知らないのか? ここの前の道路」

実はこの場所は人里離れた山奥というわけではない、通りから少し離れた程度の雑木林だ。

とはいえ、そうは思えないほど林の中は真っ暗で、何年も人が踏み入れていないように見える。

「見通しが悪いし急カーブだ。しょっちゅう追突事故が起こる」

「そこまでは知らなかったな。ホントにいわくつきの場所だとは……」


女優は蒼い顔で、恐々と地面を見つめている。

監督は無言でカメラマンに回せと指示し、ぬき足、さし足で背後から女優に近づく。

肩に手をかけた瞬間、絹を裂くような悲鳴が雑木林に響く。

そして次の瞬間には、監督の顔面に稲妻のような鉄拳が飛んでいた。


「痛てて……」

「大丈夫か?」

鼻を押さえる監督をカメラマンが気遣う。

「血、出てない?」

「うーん……メイクと区別できないね」

「そうだった……まあいい、今のシーン撮れたか?」

「撮ったけど、殴られるところまで入ったぞ」

「よし、編集でなんとかしよう。叫ぶ所まで使える」

二人が算段する間に、女優は怒りだしている。

「もうやってられない。どうしてもって言うから来てあげたのに!」

「ちょっ……待ってくれよ」

「サッカー部の練習を休んで来たのよ」

「待ってってば、次はアクションシーンなのに」

森の入口に向かって歩き出す女優の背中を監督が追いかける。

その背後では、カメラマンが三脚を片づけ始めていた。

「あっ、何やってる? 撮影はまだ終わりじゃないぞ」

「ボクも帰りたいんだけどな、部活があるし……」

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