血風!ゾンビ拳
チャイパット・スー
序章
第1話
薄暗い森の中を、少女が一人彷徨い歩く。
木は鬱蒼と生い茂り、日の光はほとんど届かない。
現在の時刻が夕暮れなのか、明け方なのかも判然としない。
学校の制服だろうか、セーラー服姿の少女は緊迫した面持ちで進んでいく。
ふと立ち止まり、辺りを見回す。何かに脅えているのだろうか?
ふと、少女の背後でうず高く積み上げられた木の葉が蠢く。
ガサガサと擦れる木の葉の音に、少女が振り返る。
そこには木の葉から這い出る、ぼろきれのような衣服に身を包んだ男。
顔は赤茶けた染みのできた包帯でぐるぐる巻きにされ、その隙間からは生気の無い顔が覗く。
立ちすくむ少女に、引きずるような足取りで近づく包帯の男。
前に突き出した両手が少女の身体に触れた時、閑散とした森に悲鳴がこだまする。
「きゃあ~っ……」
悲鳴というには、あまりにも気の抜けた声だった。
「カーット!」
そう叫んだのは、ぼろきれをまとった男だ。
「何だよ今の演技? 棒読みじゃないか」
メガホンのように丸めた台本をぽんぽんと叩き、少女に詰め寄るぼろきれ男。
どうやら、監督が兼任しているようだ。
「もっとこう……絹を裂くような悲鳴を出してくれよ」
「何よ、偉そうに……」
襲われた少女……を演じていた女優というべきだろうか。その女優は不満そうに鼻を鳴らす。
「アクションって聞いてたのに」
そこまで言ってから、今度は不安そうに辺りを見回す。
「それにしても……よくこんな場所見つけてきたわね」
「そうだろ? 登校中にロケハンしてたんだ」
ロケーションを誉められたと思ったのか、モニタをチェックしながら得意顔のぼろきれ男。
「いかにも幽霊とか出そうな雰囲気だよなぁ!」
「そんな、まさか……」
「あの、朽ちた建物なんかイイ雰囲気じゃないか?」
「ちょっと、やめてよ!」
監督が朽ちかかった建物を指差すと、女優の顔がさらに曇る。
蔦の絡みついた古い病院のような建物……見るからに不気味だ。
と、ハンディカメラのファインダーを覗いていた青年が応えた。
「ありえないね、非科学的過ぎる」
「そ、そうよね!」
ほっと安心の少女、しかしカメラマンの青年は続ける。
「そうさ。全部ただの噂だよ」
「噂?」
監督と女優、二人の声が揃った。
「噂って何だ?」
「だから……幽霊の噂だよ」
「ホントにそんな噂があるのか?」
「あぁ。他にも得体の知れないうめき声が聞こえるとか、死体をここに埋めるのを見たとか……」
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