第7話 裏の顔

「おい、大丈夫……か?」

 隣にある敷居をどかした。

 すると……


「……誰よぉ……痛いんだけどぉ……むにゃ」

 まだ完全に目が覚めていない女生徒が床でふらふらしていた。


「イリス・サリュート……?」

「ぅん……? 朝ぁ……? ってレイ・クリオス……っ!?!!?!?」

 イリスは突然目をガバッと開き、ベットに戻ると布団をかぶり姿が見えないようにした。

 布団は小刻みに揺れており、中からは「見られた見られた見られた見られた……」とぶつぶつ聞こえる。


「……俺は何も見てないぞ」

「……む〜〜〜〜〜!!!!! そんな気遣いいらないわよ!! うわ〜ん! かっこいい私のイメージがぁ〜〜〜!!!」

 どうやら本当に見ては行けないものを見てしまったらしい。


「って待って、君がここにいるって事は……もう君のお披露目は終わっちゃったの!?」

「うん、まぁ」

「えぇ〜〜〜嘘ぉ〜〜楽しみにしてたのにぃ〜〜。ちょっとだけ仮眠するつもりがぁ……」

 本当に悲しそうだ。

 それにしてもここら一帯が吹き飛びそうな事態になってたのにも関わらずずっと寝ているとは、相当凄いぞこのお嬢様。


「……何かあったようね」

 先程のあられもない姿からキリッといつもの態度になる。

 切り替えが恐ろしく速い。

「えと、それは……」


         ***


「なるほど、それはまぁ……どうしようもないわね。って言うか私、その中で寝てたのね……」

 俺は全て話した。

 闘技場でのこと。

 このお嬢様は変な奴ではあるが悪い奴とは思えなかったからだ。


「うんうん……私だったら泣いてるよ〜」

「……ん、起きていたのか」

 気がつけば背後に空から落ちてきたもう一人の女の子が起きていた。

 幼い容姿で、とても可愛らしい少女だ。

 白い肌に白いワンピースが特徴的だ。

 ……それと胸にあるアンバランスな膨らみも。


 気配を完全に消していたのだろうか、俺の後ろにいて話を聞いていたらしい。


「レイ君……その子……」

「あぁ、この子はさっき言った――」

 紹介しようとした瞬間だった。


「かっっっっわい〜〜〜〜!!!!」

「ふぎゃ!!」

 本当に一瞬だった。

 女の子がイリスに抱きつかれていたのだ。


「やめてぇ! 人族ワイズにいじめられてるぅ!!!」

「いじめてないよぉ〜スキンシップだよぉ〜」

 なにこれ。

 もはやかっこいいという感想はどこにもないイリス。

 どう反応すれば良いのだろうか。


「それで……貴方たちの正体は何なの?」

 その状態で真面目になるなよ……!!

 思わずツッコミそうになった。


 貴方たちのというのは今俺の隣にいる紫の剣の男も含めてのことだろう。

 助けてくれたのはわかるが、正体不明なのだ。


「……これは、申し遅れました。私、妖精族エルフのヘルオス・マルスと申します」

「わ、私はねぇ〜、ポネル!! ポネル・ティシュ!! 種族は猫人族ネイミーなの、よろしくねぇ〜、ぐえぇ……」

 まだ抱きつかれているせいか、苦しそうだ。


「やっぱり、ヘルオスか……それにポネル・ティシュ……聞いたことがある」

「……猫人族ネイミーの英雄。わね」

 イリスが思い出すようにそう呟く。

 ただ力が緩んだのか、ポネルはイリスの手から抜け出した。


「ふしゃー!!!」

 完全な警戒モードだ。


「じゃあ私もそろそろ寮に戻るわね……頑張ってね。私も事情を聞いたからには色々協力するから……」

「……ありがとう」

 最後に柔らかい笑顔を向けた後、イリスは保健室から去っていった。

 やはり純粋にいい奴ではある……みたいだ。


「じゃあ、俺たちも帰――」

 と、そこで思い出す。

 何故この二人は落ちてきたのか、色々ありすぎてすっかり忘れていたのだ。


「……いや、その前に何故二人は空から落ちてきたんだ?」

「空から……?」

 ヘルオスは疑問を顔に浮かべ、困惑している。


「……?」

 ポネルも当然わからない。


「最後に覚えている記憶は?」

「種族最強になった」

 と、ヘルオス。


「同じく」

 と、ポネル。


「何でここにいるのか、わかる?」

「わからんな」

「ねぇー、お腹すいたぁ〜」

 質問には二人ともなにもわからないという感じだった。


「……これからどうするかな」

 こんなことなら校長にこの二人をどうするか聞けばよかったと今になって思った。

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