第6話 波乱のお披露目会③
男は紫の剣を手に持ち、お手本のような綺麗な構えで衝突間近の隕石を見上げた。
「おい、もう怪我は……」
そう、リハーサルの時、空から降ってきた二人のうち一人だ。
あの後気を失っていたから保健室に運んだが……。
「傷? あぁ、大丈夫ですよ。ほら、この通り」
シュシュシュッと細剣を動かす。
「その剣でどうにかなるのか?」
「えぇ、実際に使うのは剣より能力ですけれど」
丁寧な物言いで謎の安心感がある。
「"
細剣を頭上に掲げ、その男は呟く。
すると細剣から紫色の細い光が、隕石に向かっていった。
それは減速することもなく素早い動きで隕石に当たる。
「しばらく使えなくなる大技ですがこれでもう大丈夫でしょう」
やがて剣先の紫の光はなくなり、男はこちらを向いてニコッと笑った。
「いや、でも……」
「よくご覧なさい」
空を見上げるとまだ隕石は動いている。
「……!?」
よく見ると逆方向に隕石は動いていた。
奇妙な光景だ、空へと帰っていく隕石。
「エネルギーの方向を変える能力です。戦闘では使いにくい能力ですが、こう言う時は役に立つものですね」
明らかに凄まじい能力。
この能力と似たようなものに俺には聞き覚えがあった。
「……あんたもしかして、へオルス・マルティシアか?」
ヘルオス・マルティシアとは、
昔は
能力が攻撃を反射するものだと聞いていたから、もしかしたらと思ったのだ。
男の耳は髪に隠れているのか何故か見えないし。
「私は……」
ドンっと鈍い音が聞こえた。
俺の頭からだ。
頭を触ると暖かく赤い液体が流れ出ている。
血だ。
「……ざっけんなよ!!! 殺す気か!!!」
「そうよ!! この……悪魔め!!!」
見れば観客は石を投げつけていたらしい。
それも魔法で作った頑丈な石を。
「校長をそんな目に合わせやがって……よっ!!!」
「魔王軍の仲間なんじゃ無いの???」
俺はすぐ校長に個別の結界魔法を張った。
「……校長の心配してるくせに校長にまで石が当たりそうじゃねぇかよ」
俺は校長を抱え、その場を後にしようとした。
もうこうなってしまってはどうしようもないと考えたからだ。
「校長を身代わりにする気か!! 卑怯者がよ!!」
もはやほぼ全員が魔法でこちらに石をぶつけてくる。
「みんな!! やめ……っ!!!」
俺は俺を庇おうとするベレッタの声を魔法で遮断する。
本当に嬉しいが、あいつまで標的になってしまう。
俺は出口に向かい歩き続けた。
「……いいのですか? こんな下等な
男の顔は笑っているが内心はイライラしているのだろうか、どこか少し怖さを感じる。
「いいから、とりあえず保健室に行くぞ」
こうして俺のお披露目会は嫌な形で終わった。
***
「……すまんな、まさかこんな事になるとは。全部わしの責任だ」
校長は保健室のベットで目を覚ました。
するととても深く体を倒し、謝った。
「……俺にも責任はあります」
「レイ……」
本心だ。
俺だってこの能力の怖さは薄々気付いていたはずだ。
このお披露目会自体もリハーサルの地点で気づいて止めるべきだったんだ。
「今回のような事は初めてのことだとお聞きしました。校長様はとても力がお有りですが今回の事象とは相性が非常に悪かった。……今回のことは事故だと思いますよ」
男は爽やかな顔でそう言った。
「本当に君らには頭が上がらんよ……。ところでレイ、今回の事で観客……生徒たちが君に怒りを感じているのを薄れた意識の中で聞いていた。……明日皆の前で今回の事故は言うつもりだが、殆どのものが話を聞かないと思う。……本当に申し訳ない。わしからできる事は何でもするつもりだ。相談でも何でもいつでも時間を空ける。校内の警備も増やしておく。だからな、絶対に一人で溜め込まないでくれ」
そう言うと、王様は再度深く頭を下げ、保健室を出ていった。
「さて、それじゃあ戻――」
ドタッ!!!
何か物が落ちたような衝撃音。
「むぐっ!?」
そして可愛らしい悲鳴が横のベットから聞こえた。
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