第4話 波乱のお披露目会①

「おい……おい、大丈夫か?」

「……あ、はい。ありがとうございます」

 つい、ぼーっとしていたようだ。

 そうだ、あのリハーサルが終わって今から本番だったんだ。


 "超展開スキル"……本当に何の能力かはわからない。

 ロストアイテムを出現させたり……人までも。

 本当に何かを召喚するスキルなのだろうか。


「それでは始まります。イリス・サリュート、前へ」

 俺の前にもう一人いるそうだ。

 同じ誕生日だったらしい。

 イリス・サリュート……確か三大貴族とか言うのの一人だっけか……当然ながら関わりはない。

 と言うか関わりたくはない、三大貴族とか絶対めんどくさいことになるからだ。


「よろしくね」

 すれ違いざまに挨拶をされたので軽く会釈。

 少し自分の行動が無礼だと思ったが、イリスは何も言わず微笑んで去っていった。


         ***

 お披露目会、実はこのエラスト育成学校では大イベントでもある。

 基本Aランク以上のお披露目となるため、殆どの人が興味津々なのだ。

 そのため、約八千人入るこの闘技場は不定期のイベントにも関わらずほぼ満員になる。


「それでは! 第……何回か忘れたけど、お披露目会始めま〜っす!! 司会進行は私、魔法科五年生のシャーロット・エルメルです☆」

 イラッとするような自己紹介をしたのは魔法科の天才と噂の先輩だ。

 さらに手をピースさせ、ウインクしながらポーズを取りイライラ度を加速させる。


「いいぞー!!」

「可愛いよぉ!! シャーロットたん!」

「はぁはぁ……しゅきぃぃ!!」

 ……そして何故か熱狂的なファンが多い。


「ではではパッパと行きますねぇ!! 最初は何とこの方!! あの三大貴族サリュート家のご令嬢! 合同三年生Bクラス!! イリス・サリュート様だぁ!! 能力のランクは何とS!! しかも未確認能力だぁ!! 能力名は"雰虹ふんこう"!!」

 おおぉぉぉぉ!!!

 と、歓声が上がる。


「S!? しかも未確認能力だと!?」

「やっぱりな! イリス様ならそうなると思ったぜ!!」

「可愛いよぉ!! イリスたん!」

「はぁはぁ……しゅきぃぃ!!」

 お前ら、見境なしかよ……。


 というかあの人もSランクで未確認能力。

 一回のお披露目会で二人もSランク……そして未確認能力。

 前例がないはずだ。

 一体どんな能力なのか、そこだけは興味がある……。


「"雰虹ふんこう"は戦闘系の能力! なので特別に戦闘相手を用意したよぉ!!! 出ておいで!」


 闘技場の二つある片方の柵が開かれる。

 出てきたのは巨大なスライムだった。


「あれは……リベルスライムか!?」

 観客の一人がそう言った。


「な、Bランクのモンスターだぞ!?」

 観客が騒ぐのも無理はない。

 スライムということもあり、弱く見えるだろう。

 ただ現実は違う。

 リベルスライムはコロコロとその体の特性を変えるモンスターだ。

 戦術を絞れないのもあり、さまざまな冒険者がつまずく敵でもある。

 しかもそれを一人で戦うのだから相当難しいだろう。


「では、よ〜いぃぃ!!! 始め!」


「"ルーブ"」

 イリスはそう呟くと、剣を構え目を閉じた。


 するとスライムは無防備なイリスに対して攻撃を振るう。

 自らの体を拳のような形にしそれを鞭のように地面に叩き潰した。

 凄まじい衝撃音と共に闘技場の頑丈なタイルが見事に砕け散る。


「イ、イリスたん!!」

「はぁはぁ……しゅきぃぃぃ!!!!!」

 心配しているのだろうがそろそろキモい。


「"リング"!!」

 その叫びと共に、スライムの塊は細かく切り刻まれる。

 そしてスライムのわずかな隙間から高速で動き出した何かが、次々とスライムのあらゆる箇所を切り刻んでいく。


 ただスライムも負けじと回復スピードを上げ再生していく。


「"パル"」

 高速だった何かはスピードを失い、それはイリスだったとわかるスピードまで落ち着いた。

 すると剣先が紫に光り、不気味な力を感じる。


「えいっ!!!」

 思い切り薙ぎ払うと、かなりの広範囲に紫の閃光が衝撃と共にスライムを襲った。


「きゃあっ!!」

「うおおぉ!?」

 当然客の方にまで閃光は届くが、流石に対策はしてあるようで、結界魔法がそれを防いだ。


 まだスライムがいた周辺では砂埃が舞い、消滅したかが確認が取れない。

 にも関わらずイリスは剣を鞘にしまった。

 そして片手を大きく上げガッツポーズをしている。


「えっ……」

「何が起こったんだ……」

 ほぼ見えない速度での戦いだった。


「勝者は……イリス・サリュート!! ……様」

「「「「う……うおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!!」」」」


 戸惑い……だがその後大歓声。

 実際に砂煙が晴れ、スライムのいた場所には何も残っていなかった。

 本人無傷の完全勝利である。


「いえぃ!!!」

 イリスは見事なVサインを決めたのだった。


「レイ・クリオス……そろそろ準備を」

 俺の出番が来てしまった。


         ***


 星、沢山ありがとうございます!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る