第3話 集落から

 目が覚める。

 いつも修行をしていたときと同じ時間に体が自然と起きる。

「おはよう、ハル」

 体を起こすと同時にジンから声がかかる。

「ああ、おはよう師匠」

 いつもより寝る時間が遅かったからか片手で目をこすってしまう。

 体を起こし立ち上がりジンが用意してくれた服へと衣を変える。

「師匠この服少し彩りが多すぎやしないか?」

「あっちではそのくらいが普通だ。まぁでも服の素材とかは動きやすいもので作られてるやつを選んでるから実戦で使っても動ける」

「へぇ」

 俺は頬を緩ませる。

「師匠振ってみてもいいか?」

「おう、振ってこいその間に飯ができる」

「それじゃ振ってくる」

 飾られている漆黒の刀、黒月を手に取る。

 それを帯刀し家から出る。


 家から少し離れた何もないところで鞘から黒月を抜く。

 鞘から抜いた黒月は刀身も全て漆黒。

 しかし鏡のごとく太陽の光を反射する。

 柄を両手で握り呼吸を整える。

 風が頬を撫でる。

 朝日が俺を温める。

 耳と第六感をすませる。

 全身で地形、空間を感じ取る。

 風が強く吹く。

 森のほうにある木から葉が一枚こちらに吹かれてくる。

 葉がゆっくり、ゆっくりと高位置でこちらに向かってくる。

 間合いに迫る、そして間合いに入る。

 確実に斬れる、確実に分断できる時を待つ。

 そして来た...。


 ______。


 そこに生じたものは事象、刀が葉を斬ったという事実。

 音はない。

 ただ葉を斬ったであろう少年と真っ二つに斬れた葉だけがそこに在った。


 帰るとジンが飯を完成させて待っていた。

「どうだった?服の具合は」

「問題なし。これなら、死花シカを使ってもなんとかなりそうだ」

「そうか。問題なしだな。んじゃ飯食うぞ」

「わかった」

 ジンと一緒に飯を喰らう。

 とおぶんおさらばであろう師の飯は美味かった。


 飯を喰い終わるとジンに貰った魔法小袋などを装着し家から出る。

 家の前にはハクレイ以外の集落の者たちが全員集まっていた。

「どうしたよ、これ」

 ジンもついて出てくると

「あぁなんか言いまわったら来る来るいうやつらばっかでな、なんか集まった」

「いや、言いまわったせいだろ...。ハクレイはどうしたんだ?」

「先にお前の行先であるアルテカ王都行ってるぞ」

「聞いてないんだが?」

「昨日言い忘れた」

「そうか」

 怒りはなかった。

 そんなものが浮かぶより新しい門出というものに期待が溢れている。

 自分に好奇心がないと思っていたが単純に新しいことをする踏ん切りがつかなかっただけだろう。

 ただ今は、新しい場所での生活が楽しみでたまらない。

「んじゃ、そろそろ行くよ」

「そうか頑張ってこい!」

 ジンが声を張って送ってくれる。

 俺はそれがうれしかった。

 だから声を張って、

「みんな、行ってくる!」

 前を向き一歩また一歩と新天地へと踏み出す。

 森の中に入り俺の姿が見えなくなるまで集落からの声は途切れなかった...。

 

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