第3話 黒田君のつぶやき

 僕は暗所恐怖症だ。


 子供の頃は、祖父母に虐待されていて、よく怒鳴られたり叩かれていた。

 機嫌が悪いと祖父の暗室に閉じ込められてしまう。

 昔のカメラはフィルムだったから、写真がすごく好きな人は、自宅で現像できるように暗室を設けている人が結構いたそうだ。祖父の場合は、趣味が高じて窓のない部屋まで作っていたんだ。

  

 僕はそこに閉じ込められると、頭から黒い布袋でもかぶせられたかのようにパニックを起こしてしまった。

 

 必死にもがいて取ろうとするが取れない。

 のたうち回る。

 息が苦しくなって、窒息してしまうんだ・・・。

 やがて気を失う。


 僕は小学校から不登校だった。学校は私立だけど、親が多額の寄付をしていたおかげで、高校まで卒業できた。

 大学はそこの通信制に進学した。

 しかし、ずっと家にいて、今まで仕事をしたことはない。


 家にいると両親が責めるので、僕は親が所有している別荘の一つに引越した。

 友達はスコッチテリアのジョンだけだ。

 

 昼間、隣の別荘の前を通りかかったけど、30代くらいの若い男の人が1人でいるのが見えた。

 僕はその人を尋ねてみることにした。

 その人も、もしかしたら田舎暮らしが寂しくて、僕を受け入れてくれるかもしれない。

 

 僕はゲイだ。

 今まで何度か1人で別荘に泊まっている男の人を尋ねたけど、孤独に耐えられなくて、何人かは僕を抱いてくれた。


 僕は震えながら、懐中電灯を握りしめて、ジョンと一緒にその人の別荘に向かった。


 出て来たのは、すごくかっこいい人だった。

 背が高くて、サラリーマン風の人だ。

 僕はどきどきした。

 年を聞いたら50歳って言ってたけど、いいんだ。


 気持ち悪がられないように、ちゃんと学校に通ってて、仕事もしているふりをした。

 ゲイだとばれないように、ノンケのふりをしてた。


 そしたら、その人はブレーカーを落として去って行ってしまった。

 僕の企みがばれたらしい・・・

 きっと勘の鋭い人なんだ。

 

 でもいいんだ。


 その人が置いて行った財布が僕の手元にあるから・・・。

 彼は車も忘れて行った。うっかり屋さんなんだ。

 だから、待っていれば必ず戻って来る。

 

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