第151話・悪りぃ
天井からは太陽の光が差し込み、洞窟部屋の中を照らしている。その中央にはデスマトスクスの英霊、そしてまわりにはティラノ達四人の姿があった。
状況はどう見ても『攻めあぐねている』以外の言葉はない。『とにかく防御が硬い』三人の同時攻撃でも全くとどかず、歯が立たなかった。
デスマトが背負うトゲ角は合計で六本。両肩の辺りから出ている二本が、特に長く太い。鎌首をもたげる様に曲線を描き、その円錐状の形は触れたものの軌道を曲げ、如何なる攻撃も
その下に二回りほど小さい、ヒトの腕くらいの太さのトゲ角が左右に二本ずつ、こちらもやはり攻撃を受け流しやすいように先端に向けて細くなる円錐状だ。
――そこに立つ姿は、まるで
さらにはデスマト自身の腕が二本。つまり、合計八本のガードをかい潜り、タリスマンを手にしなければならないと言う事だった。
「厄介すぎんだろこれ。どうすりゃいいんだ?」
「うむ……ひたすら攻撃を仕掛けてスキを突くしかなかろう」
「やっぱりそれしかないよな」
そもそもが直感的に動く猪突猛進タイプのティラノとミノタウロスには、緻密な作戦など縁遠いものだった。もっとも、それに関してはウェアウルフやリザードマンも同じ様なもので、結局たどり着いたのは『四人で同時攻撃をして隙を作る』というシンプルな作戦。
とは言え彼女達は単なる命令を待つだけの兵士ではない。進む方向が決まれば、強固な意思を持って貫く野獣達だ。
デスマトを囲み、仕掛けるタイミングを計る四人。正面にはウェアウルフ、彼の俊敏性で視覚的に距離感を狂わせるためだ。左右から強烈な一撃を見舞う役割のティラノとミノタウロス。そして後方に位置するのはリザードマン。
直感的とは言っても、リザードマンがデスマトの後方を取ったのには大きな意味があった。直接攻撃をする三人に対してリザードマンの得物は弓矢だ。飛んでくる矢を視認するのは、走り込んでくるヒトを視認するより何倍も難しい。
今度はそれを視界の外から打ち込みつつプレッシャーを与え、近接陣の動きを活かそうという作戦だ。
「いくでやんすよ!!」
リザードマンはわざわざ宣言をして頭上高く矢を射る。放ったのは五本。その矢がデスマトの頭上から一斉に襲い掛かった。
当然、矢に注意が向きガードを固めるだろう、それを促す為の宣言なのだら。そしてそこに身体能力に優れた近接三人が飛び込み、タリスマンを狙う!
――しかし!
「え~……それ、アリなのかよ」
「はい? 三歩下がっただけですが? そもそも僕は『そこを動かない』なんて言っていませんし、勝手に思い込んだだけですよね。あなたの感想ですよね? それって短絡的すぎですよね、アホなの? 馬鹿なの? ……すみません」
デスマトは、ただ数歩下がって矢を避けただけ。リザードマンの矢は最初にデスマトが立っていた場所にサクッ……サクッ……と刺さった。
それでも止まる事のない三人は、トゲ角を封じるために一斉に飛び掛かった。だが、デスマトの足元を狙ったウェアウルフの攻撃も、トゲ角を押し切ろうと全力で撃ちつけたミノタウロスの強撃も、そして攻撃すると見せかけてタリスマンを狙ったティラノの手も……全て防がれてしまった。
「いやはや、ちょっとだけヒヤリとしましたよ。単細胞生物にしては考えましたね。ですが脳味噌フル回転してもこの程度では僕の足元にもおよびません。……すみませんマジですみません」
四人の一斉攻撃を防いだデスマトは余裕を見せる。が、その直後、彼はその場に転倒してしまう。
「え……」
「その余裕が命取りでやんす!」
宣言して矢を撃ち、それで仕事を終えたと思われていたリザードマンは、視界の外から走り込みデスマトに足払いを仕掛けていた! 完全にデスマトの思考の裏をかいたリザードマンの襲撃。
「そもそもオイラは自分を弓兵だなんて言ってないでやんすよ」
デスマトに向かって『勝手に思い込んだだけですよね。あなたの感想ですよね?』と嫌味を付け加えたリザードマン。
倒れた隙を狙ってタリスマンに手を伸ばす三人。
そして……
「よじ、取ったど~~!」
ウェアウルフはデスマトの首から引きちぎったタリスマンを高く掲げ雄叫びを上げていた。
「ああ、ごめんなさい。すみません……」
その瞬間デスマトはトゲ角を昆虫の脚の様に動かし、仰向けのままティラノ達との距離を一気に開けた。なりふり構わずと言った所なのだろう、その勢いはすさまじく、小石を弾き飛ばし、砂を巻き上げて移動していた。
「あ、あの、すみません。ほんっとごめんなさい」
「そんなに謝られても困るのだが……」
平身低頭、謝りまくるデスマトを見て、対応に困るミノタウロス。
「だよなあ。別に怒ってねぇって」
スッキリした性格のティラノ。『戦いは戦い』をしっかり線を引く、これが彼女の良い所なのだとウチは思う。
「はあ、ありがとうございます。でも……」
そう言いながらウェアウルフが掲げるタリスマンを指差すデスマト。
「それ、偽物ですから……すみません」
「……なんだど?」
偽物と言われ、手の中のタリスマンらしきものをじっと見るウェアウルフ。裏には『悪りぃスマン』と書いてあった。一瞬頭の中が真っ白になるも、直後地面に叩きつけ大剣で叩き割っていた。
「ふざけやがって……」
怒り心頭の一同、どうあっても収まりがつかなさそうな雰囲気。これが漫画なら、真っ黒の背景に赤い目が八つ、ギラリと光っている所だ。
……しかしティラノ達四人の怒りをはるかに超越した者がそこにいた。
「おい、てめぇら、ちとどいてろや」
「え……アクロさん?」
あまりの変化に脳味噌が追い付いていないメデューサ。色白だった肌は褐色に染まり、赤い髪は炎の如くゆらゆらと逆立っている。直前までの花を愛でていた大人しい
「おんしゃあ、しゃけるまでしでるぞ!」
(訳:お前、泣くまで殴るぞ!)
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※アクロの最後のセリフは土佐弁です。
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