第146話・単純ざます。

「おお、これは香しき乙女。なんともイノッツェン~~~ズァ(純真無垢)ですね!」


 か細く聞き取りづらいアクロの声をしっかりと聴いたキピオ。どうやら女性の声はハッキリと聴きとることが出来るらしい。しかし博多弁で話す彼女の言葉の内容までは理解が及ばないのだろう、全く会話が成り立っていなかった。


 ……いや、これは最初からか。


 アクロは溜息をひとつつくと、キピオを完全スルーしてメデューサに話しかけた。

わっち姉さん(メデューサ)、氷使えとうと?」

 そう言いながら自身はその場を動かずにメデューサを手招きする。

「氷魔法、という事ざますか? もちろん使えますが……」

 “水のせいで動きが鈍くなっている”。そんな近接アタッカー勢の機動力がそがれている現状を見て、足場を固めるという提案なのだろうとメデューサは思ったのかもしれない。

「でもこの広い面積を凍らせるのは流石に無理ざますわ。それに足場を作っても滑ってしまっては……」

「そんなにいらんたい。ちょいと耳を貸すっちゃね」


「お? 作戦会議か?」

 と、近寄ろうとするティラノに“ビシッ”と右掌を突き出して制止させるアクロ。 

「ナイスなティラノ姉さんは赤い変態をおいたくっとね」

「お、おう……ナイス? おいたく?」

 良く解らないが、なんとなく雰囲気は伝わっているティラノ。

「それから、カッコイイお兄さんと素敵なお兄さんとイカすお兄さんも赤いばかちんをちょろまかしとき~」

「カッコイイ……ってワシか?」

「じゃ、オイラは素敵でヤンスね」

「ふむ、イガス兄ざんも悪ぐないな」

 彼等がチョロいという事もあるのかもしれないが、どうやらアクロは人を誘導するのが上手い様だ。言葉巧みに相手が喜ぶ形容詞を適当にくっつけて良い気分にさせ、結果、静かな時間を得ようという事なのだろう。

 気分よく、バシャバシャと水飛沫を上げながらキピオを追いかける四人。

「あらあら、単純ざますわね……」



「これでどげんね?」

「なるほど、そう言う事ですか……」

 アクロの助言を受け、動き回るキピオの足元を見ながら何かに気が付いたメデューサ。湿気で広がった髪の毛を整えながら、考えをまとめている様だった。

「じゃ、後はめちゃ美しいわっち姉さんにまかせるたい」

 と言うとアクロはその場に腰を下ろし、気怠そうに岩にもたれかかった。

「あらあら、美しいだなんて本当の事を……」

 メデューサは滅茶苦茶上機嫌で魔術用の杖を構え、顔がほころびそうになるのを必死で我慢しながら進み出て声を張り上げた。

「ダスプレトさん、でしたっけ? 聞こえてます?」

〔何用だ〕

「先ほどあなたは『どんな手を使っても』とおっしゃいましたわよね?」

〔ああ、それがどうしたというのじゃ〕

「その言葉に二言はありませんね?」

〔あたりまえじゃ、しつこいぞ!〕

 その時メデューサの口元がニヤリと笑ったのを、ティラノは見逃さなかった。

「お、何かイイ手があんのか?」

「もちろんです。あの余裕ぶっこいたニヤケづらを、二度と笑えなくしてやりますわ!」






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