第145話・だまらんとね?

「全員でやるのは流石に卑怯であるな」

「ああ、捕まえろっで言われでもなぁ……」


〔——かまわんよ、どんな手を使ってもかまわん。さっさとキピオを黙らせてくれ〕


 対等条件での戦いを信条とするミノタウロスとウェアウルフに、なんとも投げやりなダスプレトサウルスの声が返事をする。


「あら、酷い扱いざますわね」

「まあ、わからないこともないでヤンスよ」


 味方なのか邪魔者なのか、“どう表現すればよいかわからない微妙な空気が”ダスプレトサウルスの声に混じっていた。しかし、そんなことはどこ吹く風。スキピオニクスはどこからか取り出したくしで髪型を整え始めた。


「まったく、ここは湿気が高くてピュ・ア~~~ルト(最高)な髪型が崩れてしまいます」


 キピオはよく言えばマイペース、悪く言えば傍若無人といった性格だ。毛先を指でひねりながら、水面に映る自分の顔をうっとりと眺めていた。


「おお、なんとオッティ~~~ムォ(超最高)な私なのでしょう!」


 ティラノが振り返ってみんなの顔を見ると、そこには無表情な顔が並ぶ。つっこむのが正解なのか、それともスルーが良いのか、答えが見つからないと言った感じだ。


「なあ……なんかコイツ苦手なんだけど」

「皆同じでヤンスよ」


 そんな中にあって興奮気味のミノタウロス。『良く解らんが、赤い物(注)を見ると興奮する』と息巻いていた。


「そろそろよろしいですかな? さっさと終わらせて帰りたいのですよ、私は。ファ~~~トゥ(理解しましたか)?」

「しゃーねぇな。さっさと終わらせるか」

「仕方がないざます。皆で追えばすぐにも疲れるでしょう」

〔無駄じゃ無駄じゃ。霊体に疲れるという言葉はないのじゃよ。そんな簡単な試練を与えると思っておるのか。なめるなよ? ガキども〕

「……爺さん、アンダどっぢの味方なんだよ」


 ぼやきの直後、キピオに向かって飛び掛かるウェアウルフ。大剣はその場に突き刺し、身を軽くしての襲撃だ。しかしこの奇襲は余裕でかわされ、キピオは一瞬にしてウェアウルフの視界から消え去っていた。


「くっ……どごに行っだ?」

「こちらですよ。なんともルェ~~~ント(遅い)。期待外れですね」


 後ろから聞こえて来た声に振り返るウェアウルフ。瞬間移動テレポートの魔法でも使ったのかと思った様だが、すぐに考えを改めた。自分のいる足元、つまり数秒前までキピオがいた場所から、今立っている場所まで水線が走っているのが見えたからだ。それはつまり、一瞬にしてここからあの位置まで走ったということに他ならない。


「なんだアイツ、あんな変態なのにキティより速いじゃねぇか……」

「驚きましたわね、あの脚力は。変態ざますが」


 ただ走っただけではない、キピオは水面の上をすべる様に駆け抜けていた。くるぶし程度の浅瀬だが、普通に走れば水飛沫みずしぶきが上がるのは道理。しかし彼の移動の軌跡には水線しか残っておらず、これはつまり、水面に対して体重がかかっていないということだった。


 ほんの一瞬の事象であったが、これにはキピオの身体能力の高さを嫌でも理解せざるを得なかった。


「あヤツが『全員でかかってこい』と言ったのは、煽りでも虚勢でもなかったということか」


 ヒラヒラ動く赤スーツを見て鼻息が荒いミノタウロス。


「みなさんに風魔法の加護をかけるざます。四方向から囲んでくださいまし」


 メデューサの指示通りキピオを取り囲み、少しずつ包囲の輪を小さくしていく四人。ティラノが距離を詰めるとその分下がるキピオ。その後ろではミノタウロスが退路を断ち、ウェアウルフとリザードマンが左右からプレッシャーをかける。


「食らいなさいな!」


 メデューサの風撃魔法エアリアルが発動し、キピオの足元に着弾した。攻撃魔法としての威力自体はそこそこだが、水の中で破裂した風の塊は水柱を発生させ、キピオの視界を遮った。

 

 ――直後、一斉に飛び掛かるティラノ達。

 

 キピオの視界を遮ることでティラノ達との距離感を狂わせる作戦だ。ほんの一瞬でも判断が遅れれば、捕まえられる確率が上がると計算してのことだった。……しかし、ティラノ達が伸ばした手は空振り、水柱の先にいたはずのキピオは、いつの間にか10メートル程離れた場所に立っていた。


「これは一体……」

でヤンスね」

「触っているのに掴めねぇとか反則だろ」

「んん~。霊体ですからね。そんな道理など私には通用しませんよ。ハイ・カピ~~~トゥ(理解しましたか)?」


 キピオの身体能力を、そして奇妙な状況を目の当たりにしたティラノ達。皆が皆、現状を理解しようと頭をフル回転させている時だ。


「しゃーしか~。だまらんとね?」

(訳:うるさいな~もう。黙ってくれない?)


 今までボケ~っと見ているだけだったアクロが、誰に向けてと言うこともなくか細い声で口を開いた。


「おはん、脳味噌ほげてるんじゃなかと?」

(訳:アンタ、脳味噌に穴あいてんじゃない?)






――――――――――――――――――――――――――――

(注)実は、牛は色の識別が出来ないそうです。よって闘牛では赤色に反応しているのではなく、ひらひら動く布に反応していると言われています。


※博多弁はネットで調べながら書いています。もし間違っていたらごめんなさい&博多な方いらっしゃいましたら是非checkをお願いします(´艸`*)


ご覧いただきありがとうございます。

この作風がお嫌いでなければ、評価とフォローをお願いします!

☆とかレビューもよろしければ是非。

この先も、続けてお付き合いください

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る