第132話・家族

 アンジーはウチの目をじ~っと見ながら口を開いた。

「予知と転移者の覚醒が関係あるって所でね、黒ローブが転移者だってのはすぐに察しがついたよ」

 まあ、そこは隠す部分じゃないし、むしろ繋げて話さないと意味が通じなくなるよな。


「でもさ……って何よ。”正体不明の黒ローブ”っていいながら正体見てんじゃん」


「……あっ」

「うっぜえ……。『あっ』とか言ってんじゃねぇよ。何で敵にいんだよ、そのガキは」

「えっと、その黒ローブの……って、ああ、もう猫耳幼女でいいか。その子、どうやら魔王軍に家族を人質に取られているらしいんだよね」

 これもグレムリンの言う事だからフェイクの可能性はあるけど、本当だったらと考えると手が出せなくなる。

 あの場で『家族を人質にとっている』と言ってきたのは、戦略的にものすごい効果があったんだって、この時、今更ながら気付かされたんだ。

「だからうかつに手を出せないし、一概に敵認定しちゃうのも違うんじゃないかなーって」

 押し黙るアンジーと新生。家族と言うキーワードがこの二人にとってどれだけ重いものかを考えれば、当然の事かもしれない。重苦しい空気の中、口を開いたのは意外にも新生だった。  

「だけど……そのガキが敵なら、オレはかまわずぶっ潰す。知らない奴の家族なんかより、自分の家族の方が大事だ」

「そうだね、それに関しては初代に同意するよ」

 珍しく二人して同意見の様だ。もっとも、そもそもの行動原理として『敵は容赦しない』ってのはこの二人の共通認識だから、特別おかしな話ではない。むしろ普段いがみ合っている方が不思議なくらいだ。

「敵として向かってくるのなら、私は、妹の為にも遠慮はしない」

 あ、いや、アンジーさん。その相手があなたの妹なのですが……って言えないのがもどかしすぎて頭の中がぐちゃぐちゃして来たわ。ストレスやべ~。


「ま、まあ……その辺りの事情を踏まえてね、自分の神さんから情報得られないか聞いてみて欲しいんだ。特に“覚醒”について」

「それはいいんだけどさ、八白さん……」

「アンジー、目が怖いぞ」

「猫耳幼女の転移者なんて情報は、一番最初に言うべき事じゃないの?」

 殺気にも近い眼光がウチを刺しにきた……。

「だよな。情報共有が聞いて呆れるわ。いい大人が何やってんだよ」

 そして新生にここまで言われる始末。

「ああ、うん。なんかごめん」


「で……その幼女って誰? 八白さんは何を隠しているのかな?」


 ――来た。この洞察力の鋭さが怖いんだ。この時点でウチが猫耳幼女の正体を知っているとアンジーは推察している。しかしこれ以上は何があっても口を滑らせるわけにはいかない。この先の言葉一つで全てが崩壊してしまう。ウチは、ひとつひとつ言葉を選びながらゆっくりと口を開いた。

「その……どうしても助けたい人。とでも言うか、助けないといけない人、とかそんな感じなんだけど」

 ものすごく歯切れが悪くなってしまった。しかし今回はそれが功を奏したって事なのだろうか? たどたどしく言葉を濁らせるウチを見て、アンジーは勘違いをしてくれたみたいだ。

「わかったよ、それ以上は聞かない。でもその人は、大事な人って認識で良いのね?」

「そう、それそれ。滅茶苦茶大事! だから、ぶっ潰すとかはナシで……お願いします」

 ウチにとって大事な人ってのは広い意味で間違いはないし。これで納得してくれるのならなんでもいい。


 しかしこの時……アンジーの表情に一瞬だけ“怒りが走った事”を、ウチも新生も気付いていなかった。唯一察していた女神さんから“それ”を聞かされたのは、アンジーが自身の魔力を使い切り、この白亜紀から消えた後の事だった。






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