第134話・ざけんなよ!
「アンジーの『魔力消費が激しい』ってそれが原因だったのね」
「っぽいね。異世界の能力をまるっと使えるのが私の“覚醒”って事みたい」
なるほど。強さの秘密はそれだったのか。考えてみれば、異世界に転生して魔王軍を潰せるだけの強大な力を手に入れて、それをそのまま
「最初からわかっていればセーブ出来てたかもしれないけど。いや、アンジーの事だからそれはないな、アホだし」
「扱いひっど。消えたら化けて出てやろうか」
「……どういう事だよ、それ」
“覚醒”という要素が判明した今、隠す必要がなくなったと判断したのだろう。アンジーは新生の前で『消える』という言葉を口にしていた。
「……消えるってなんだよ」
「まあ、なんつーかさ。魔力切れたら多分この世界から消えるんだわ」
「そんなこと聞いてねぇぞ」
「うん、言ってないから」
あしらい、軽い口調で答えるアンジー。多分これは新生がショックを受けない様に配慮したのだろう。
「てめ……ざけんなよ!」
「なんだよ、さみしいのか?」
しかし今回はそれが仇となり、どうやら新生の怒りスイッチを入れてしまった様だ。
「自分勝手すぎんだろ!」
「あ? 何でいちいち言わなきゃなならないのよ」
「周りの迷惑考えねぇのかよ、わかれよ、クソが」
「理不尽に環境が変わるなんてことはいくらでもあんだよ。ガキ」
また始まったいつもの光景。最近は小競り合いの頻度が上がっている気がするんだけど……。なんだかんだでお互い認めかけていた相手の言葉だ、結構響くものがあるのだと思う。
「——黙っておいて行かれたヤツの気持ちを考えろよ!」
以前二人の転移前の話を聞いた時に『ウチなら耐えきれない』と、ただ単純にそれだけを思った。でも考えてみれば、それを彼女達は弱冠十七歳や二十歳で経験して、それでも前を向いて足掻いているんだよな。
「——手が届かなかった悔しさがお前にわかるか!」
転移前に負った心の傷はかなり根深い。そんな簡単に解消出来るもんじゃないだろう。それでも前を向かなきゃならない、向かないと進めない。
「くそ……消えた後、てめぇはどうなんだよ」
「ん~。それが問題なんだよね。減るのが寿命って訳じゃないから死ぬ事はなさそうだけど、異世界に戻されるのか令和に戻されるのか、まったく……」
「薄々感じていたけど、アンジュラ、あんたってさ……」
「なんだよ……」
「マジで馬鹿すぎだろ?」
「んだとコラァ、表出ろ!」
フードの中からエクスカリバーを取り出そうとするアンジー
「ここは表だろうが、クソがぁ!」
腰に手をやり、剣鉈を抜こうとする新生。
――だがしかし!
「ウチが武器を預かったの忘れてんだろ。君らさ、ア・ホ・す・ぎ・じゃね?」
瞬間、二人の殺気がウチに飛んできた。怖えぇ~。……でも息合ってんじゃねぇか。
多分また『表に出ろ!』パターンになるだろうと思って、それぞれの得物はウチが回収してドライアドに預かってもらっていたんだ。
剣鉈という、脇差よりも短く取り回しの良い武器と、レア中のレアであるエクスカリバーを手にしたドライアド。これも武人の血なのだろうか、振り回して感触を確かめていた。やがてそれは演武となって、周りにはギャラリーが集まって独演会状態だ。
「なんか、
アンジーも新生も、自身の得物を取り出そうとした体制のまま、ドライアドの演武をキョトンと眺めていた。しばらくして我に帰り、ちょっとだけバツが悪そうにしながらその場に腰を落とした。
「……ま、落ち着こうよ」
剣鉈とエクスカリバーの二刀流。振り上げ、横に薙ぎ、突き、斬り下す。そんな
「こうきたら……こうっス!」
脇で見ながら避けたりガードしたり隙を見つけては蹴りを放ったりと、演武の動きと闘っていた。
考えてみればルカは“剣術使い”と戦った事がないし、そもそも
「経験不足って結構な弱点なんだよな……」
だからと言って闇雲に魔王軍に突っ込めとは言えないし。
「んじゃ、戦ってみたら?」
ミルクチョコを頬張りながら提案するアンジー。
「オレも……やってみていいか?」
力の無さを痛感し、活路を見出したい新生。
「なあ
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