第124話・ケミストリー

 猫耳幼女をしばらく追いかけまわした後、そう簡単に捕まえられないと悟ったルカ。ヤンキー座りの状態で両ひざに肘を乗せ、指を組んだ手の上に顎を気怠けだるそうに乗せていた。

「なあ、頼むよ~。捕まってくれないっスか?」

 追う事も追われる事もなく、二人してアニメ時間が終わった子供みたいにとても退屈そうだ。

「鶏を追いかけるのを止めたロッキー(注)みたいな放心状態やな」

〔またよくわからない事を……〕


 スーの方も岩で出来た巨大なドラゴンに手間取っていた。大きさよりも何よりも、ピノが分析した“鉱物が多く混じる岩”というのが厄介だ。当然、堅い。そして意外と素早いという誤算付き。

毛玉竜(グレムリン)って、かなりスペック高いんだな」

〔また微妙な呼び名を付けて……〕

 女神さんの言いたい事は解る、解るけどさ。

「でも、他に的確な名称ってある?」

〔……〕

 うむ、ないらしい。反論出来なかったのが余程悔しかったのだろう、女神さんの“ぱふっ”としたカカト落としがウチの頭上で炸裂していた。


 毛玉竜グレムリンはその超重量で踏み潰そうと前足を振り上げた。スーは横に転がり避けるが、その先に待っていたのは大きい口を開けた頭部。咄嗟に大鎌の柄を砂浜に突き立て、力任せに方向転換をしてかみ砕かれるのを避けた。

「ふう、生き物の動きではありませぬでいやがりますぞ!」

 確かにスーの言う通りだ。左前脚を振り上げながら頭を右側にトラップとして配置するなんて、あれは身体バランスを考えない機械ロボット的な構造だから可能になる動きなのだろう。

「思ったよりイイ動きしやがりますデスな」

「ふん、ここにいる全員が束になってもオラには勝てないっペよ!」

 攻めあぐねている恐竜人ライズ達を見て、調子に乗っている毛玉竜グレムリン

「あの野郎、完全に甘く見ていやがるな……」

 確かにスーの攻撃はほぼ効いていない。ハーピーのサポートがあってなんとか現状維持が出来てるくらいだ。


 ……だがしかし、ここに現状打開の起爆剤が加わる。ピノの知識が四人の連携にどんな化学反応ケミストリーを起こすのか? それがこの戦いのポイントだろう。

「それにしても……ピノちゃんも特殊だったけど、スーちゃんも何というか……凄いな」

「うむ、あの型のない闘い方は、誰にも真似が出来ないでござる。野生の戦い方とでもいうべきか……粗暴に見えてその実、無駄が全くない。ティラノ殿ですら剣士としての素養が強い分、基本を踏まえた戦い方でござるからな」

「な、なるほど……」

 深い話になると、戦闘力ミジンコのウチにはイマイチ理解出来ない。でもまあ、みんな強いって事だけは判るし、それで十分な気もする。





「ピノ殿。これはどうやって壊されやがりますデスか?」

「どんなに堅い物質でも、砕けるポイントというものがあるものです。そこを的確に突けば破壊は可能なのです」

「何を言うかと思えばそんな下らない作戦だっぺか。実際そんな事が出来るのは漫画の中だけだっぺよ」

「何をおっしゃられやがりまスか。それをやってのけるのがピノ殿デスぞ!」

「ほう、やれるものならやって見ろ! だっぺ。このオラが操る最強最悪のドラゴンには、どんな攻撃も通用しないっぺ」  

 煽り文句が終わると同時に、ハーピーの羽根矢が毛玉竜グレムリンの頭上を襲った。羽根矢一枚あたりのダメージは微量だが、それが連続して何百枚も広範囲にバラ撒かれる。避ける事も難しく、対応に苦慮しているとどんどん体力が削られてしまうという、見た目に反して強力な技だ。……だがそれは生身の相手に対しての事。

 

「オラにそんな魔法が効く訳ないっペ。ハーピー、お前様もパープリンになったっペか?」

 確かに毛玉竜グレムリンには全くダメージが通らない。しかし煽り文句を完全にスルーして、ひたすら羽根矢を打ち下ろし続けるハーピー。多分これは、ピノから提示された作戦なのだろう。

 どんなに小さな攻撃でも、しつこく続けられるとやがて神経に触ってくるものだ。例えるなら夏場の羽虫。実害はほぼなくとも、目の前をフラフラ飛びどこかに消えて、忘れた頃にまた視界でフラフラする。これが続くと聖人君子でもイライラしてしまう。

 そしてこの作戦には、別にもう一つ意味があった。大量に降り注ぐ羽根矢に寄る目隠しだ。そしてそこに強力なスキルを打ち込む! ……はずだった。

 

「さあさあ、喰らいやがるデスよ。このスー様が乾坤一擲、最大最強の技をお見舞いして差しあげてしまいますぞ!」

「スーぅさぁ~ん、それ口にしたらバレバレなんですよ~。折角目隠ししてくれているのに~」

 腰に手を当てながら『ふう~』とため息をつくピノ。

「う~ん、ピノちゃん呆れ口調じゃん。いつもは呼び捨てなのに、さん付けで距離感を醸し出してますな」

「うむ、あれが野生の呼吸というものでござるな」

「……さすがにその解説は苦しいで」


 スーは腰を落として、大鎌を右下に構えた。足元から立ち上がる黒紫のオーラが全身を覆っていく。渦を巻く禍々しいモヤモヤの中から、赤い目だけが光って見えていた。

「さて、本気を出すとしますか。飽き飽きしてたんだよ、こんな茶番にはさ。我を退屈させた罪、その身体に刻んでやんよ!」


「あれ、スーちゃん急に標準語になっとる……」

「うむ、それが野生の……」

部長(ドライアド)、それもうええって……」






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(注)超名作映画ロッキーシリーズの第二作目でのワンシーンです。


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