第64話・苦手なもの

「なあ、女神さん」

〔なんでしょう?〕

初代新生こいつってさ、結構寝顔かわいくない?」

〔こらこら、寝ている人の顔にいたずら書きするものではありません〕


 ちっ、隠し持った木炭に気が付かれたか。


〔私の見ていないところでやって下さい〕


 ……女神さん、段々ウチに似て来たじゃないか。


 海岸で戦闘があってから二日経ち、恐竜人ライズ達はツリーハウス作りに精を出してくれている。ウチもすぐ手伝いに戻らないと頑張ってくれている彼女達に申し訳がない。それに、言い出しっぺが現場にいないのは責任放棄だからな。

 しかしまずはこいつ、目の前で寝息を立てる初代新生の扱いを決めなければならない。と言ってもそんなに重い話ではなくて、この後彼女がどうするのか、それに対してウチ達はどう対応するのか? って話だ。


「ところで女神さんや!」

〔はいはい如何なさいました? ご隠居〕

初代はつしろ新生ねおって、味方になってくれると思う?」


 ベルノやラミア、セイレーンが必死で回復してくれたおかげで、なんとか一命を取り留めることが出来た。だけど、瀕死の重傷である彼女を海岸に放置するわけにいかず、仕方なくウチ達の拠点まで運ぶことになってしまった。草を敷き詰めたベッドに、デカい葉っぱを組んで作った屋根。白亜紀で最も上等なスイートルームで寝息を立てる初代新生。


〔どうでしょう、厄介な性格としか判断出来ません。あ、それはアナタも同じでしたね〕

「……ひと言多いって」

〔ところで、急にどうしたのですか? 八白亜紀〕

「いやね、目を覚ました時になんて声かければいいかわからんくて。慣れてないんだよ、人付き合いってやつに」


 初代新生の恐竜人ライズ達は皆、アンジーが連れて行った。今孤独になっているのは、言ってしまえば自業自得ってやつなんだけどさ……。 


「これがもしウチなら立ち直れんぞ。死にかけて回復して目が覚めたら仲間が一人もいなくなっていました。なんてさ」

〔しかし、初代新生の恐竜人ライズ達は虐待まがいの扱いを受けていましたよね? 八白亜紀、あなたはそのままの方が良かったと?〕

「そうじゃない、それは断じて違う。でも、なんであんなに他者を否定するのかと思って」

〔直接聞いてみたらいかがですか?〕

「いやいや無理……だと思う。ぷちコミュ症なの知ってんだろ?」

〔私や恐竜人ライズ達、魔王軍とは普通に話が出来ていると思いますが?〕


 ……あれ? 言われてみれば確かにその通りだ。アンジーとも普通に話せてるし。それってつまり……やはりウチは“初代新生が苦手”という結論になるのか。


「まあ、好きなものを嫌いになれない様に、苦手なものを簡単に好きにはならないよな。……納豆なんてどうやっても食えないし」

〔そういえば、臭いが似ていましたね〕

「あ、そうか。受け付けない訳だ。あの巨大うつぼかずらの臭いって納豆だ。それも腐った納豆! ……って、そもそも腐ってんじゃん、アレ。食おうと思う方か? 普通」

〔腐っていません、発酵食品です。水戸の人に謝ってください、全力で!〕


 ……その後、女神さんのカカト落としが“ぱふっ!ぱふっ!ぱふっ!”と三連撃で落ちてきました。






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