第50話・完全決着
この一戦が、今後の方針に多少なりとも影響が出てくる。ウチの対魔王構想のひとつである“対話”の一手には、ドライアドの協力が必要なんだ。
……という訳で、負けるわけにはいかない!
「ね、プチちゃん!」
「い、いきなり意味不明な同意求めないでくださいぃ~」
流石にインプを倒した“あの手”は二度も効かない。『そんなのは当たり前だ』と、ドライアドも思っているはず。だからここで取るべき最も効果的な作戦は、裏の裏をかいて更にその裏を突く。
「サブカル戦術が炸裂するで! そしてタルボちゃん、ジュラたまブーストいくよ!」
「はいですの!」
ウチは、白と黒のマーブル模様の指輪をポケットから取り出した。その時一瞬嫌な事を思い出してしまい、振り返って確認したんだけど……初代新生は相変わらず亀の産卵をしていた。
よし、安心してジュラたまブースト開始だ。
指輪をはめた瞬間、七色の光が放出され、それと同時にウチの身体から力が抜けるのを感じた。とはいってもイキナリ体力を持って行かれたという感じではなく、一瞬の疲労感があっただけだ。
――先手を打ったのはタルボだった。小柄な体と滅茶苦茶素早い動きでドライアドを翻弄し、前転しながら背面に転がり込んだ。砂浜だというのにバランスを崩すこともなく、切り替えしも素早い。
「これがジュラたまの効果なのか……」
〔身体能力の上昇効果が顕著に表れていますね〕
ティラノは動きを合わせ、ドライアドの正面から攻撃を仕掛ける“フリ”をして注意を引き付けた。
どちらから攻撃が来るのかと、一瞬判断に迷ったドライアド。タルボはその隙を見逃さず、足元を狙い得物を叩きつける!
「レックス・ディヴァステート!!」
自身の身体程の大きさのバトルハンマーを目一杯の力で叩きつける。インプを倒した時と同じ様に、ドライアドの足元から大量の砂が爆発的に舞い上がり視界を塞いだ。
「いくぜ! レックス・
上段の構えからのレックス・ブレードに対し、レックス・ブラストは“居合抜き”に近い型から腰に溜めを作り、横薙ぎに一気に振り抜く。ブラストは、風斬音をなびかせた衝撃波を撃ち出す技だった。
砂の吹き上げで視界がふさがれたところに、レックス・ブラストが斬り込む。視界が開けたと思った時には、すでに衝撃波がターゲットを仕留めている。喰らった本人は“何故自分が倒されたのかすらわからずに”その場で崩れ落ちる事になる。……インプの様に。
しかし……
「タネが解っている者に同じ技を使うとは笑止千万! そんな事では拙者は倒せぬぞ」
「まあ、そうだよな~」
インプを倒した時、ドライアドは舞い上がる砂の
……ウチのサブカル戦術には、二の矢三の矢があるんやで。
ドライアドは刀を縦に構えた。レックス・ブラストが横薙ぎの衝撃波攻撃なのは先ほど見ている。だから縦に構える事で攻撃を防ぐ事が出来ると考えたのだろう。
しかしそこへ、タルボが吹き上がる砂の壁を突っ切って“刀の柄”を狙い攻撃を仕掛けた。刀を落とさせて戦闘継続不可能にさせる為の攻撃だ。
「残念、その攻撃は読んでいるでござるよ!」
ドライアドは姿勢を低くし、タルボの攻撃に刀を合わせた。そして、頭の上をレックス・ブラストがかすめていく……はずだった。
「それは俺様のセリフだぜ!」
今回のレックス・ブラストはかけ声だけのフェイント。インプを倒した時に“見ている”ことがこの戦術の布石だった。砂の壁で視界を奪い、ブラストを撃ったと見せかけてティラノはドライアドの左手側に回り込んだ。
タルボとの鍔迫り合いで動けないドライアド。小さいと言っても、10メートルを超す恐竜のパワーを秘めた身体だ。さらに今のタルボはジュラたまブーストもしている。
そこへ攻撃を仕掛けるティラノ。しかしドライアドは横から来るティラノを視界の隅に捉えながら、その攻撃を左足で受け止めた。
「
これは、ティラノの得物が木刀であった為に選択した闘い方だった。いくら強いといっても、直接切断能力の無い武器には打撃武器としての対処で事足りる。
「タルボ殿を囮に、ティラノ殿が直接攻撃を仕掛ける。見事でござる!」
その一言を聞いた瞬間、ニヤリと笑うティラノ。
「なあ、ドライアド。あんた、いつから
「なん……だと?」
――そう、彼女の言う通り、ウチの『三の矢』はここだ!
ティラノは木刀をその場に落とし、ドライアドの左足をガッチリと掴む。続いてタルボもバトルハンマーをその場に捨て、ドライアドの右腕をしっかりと抱え込んだ。
そして二人の
「ここだ!」
ティラノは押していた力を持ち上げる方向に切り替える。いま出せる全力の力で一瞬だけ、ほんの一瞬だけで良かったんだ、ドライアドの左足を浮かし、決定的な態勢を作るのは。
――その瞬間、タルボは不安定な状態で立っているドライアドの右足を、砂を巻き上げながら刈りとった。
そう、これは二人がかりではあるが、柔道で言う所の見事な“大外刈り”だった。
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