第49話・武士道(こっちは本物)

「お? 気が付いたかい?」


「……何故敵であるアナタが?」

「え~と……。助けたのウチじゃないんだ」


 まあ、なんというか。セイレーンの身体起こしているのがウチだから、見た目だけはウチが助けた感じになっているけど……実際ウチ自身はなにも出来ませんでした。無力すぎて泣けてくるんじゃ~。結構本気で凹んでるわ。


「セイレンぴ、よきのき?」

(訳:セイレーン、調子はどう?)


「ラミア⁉ なんでここに?」

「ミアぴが回復してくれたんだよ。他に誰も回復呪文とか持ってなくてね~」

「何で放っておかなかったのよ……」


「放置プレイとか、なしよりのなしだよ!」

(訳:放っておくとかありえないから!)


「魔王軍裏切ったアンタが何故今になって……」


「――いい加減にせぬか、セイレーン!!!」


 おおう、焦った……。ドライアドってばいきなり怒鳴るんだもんな。ウチの頭の上を怒号砲がすっ飛んで行ったわ。


「おぬしは八白亜紀殿とラミアに救われたのだ。それにラミアの立場を考えてみよ。おぬしの言う通り、確かに我々からしたら裏切り者だ。本人もそしりはまぬがれぬと理解しているだろう。それでもセイレーン、おぬしを助ける為に出て来たのだ。その恩義に答えよ、それが理性を持って生きる者の道ぞ!」


 ちょ、何このヒト? 滅茶苦茶正論かましてくれて……。ええ上司やないか~ウチもこういう人の会社に就職したかったわ。


「あ、あとさ。このも必至で回復手伝ってくれたから」

「よかったニャ! しゃいれ~ん生き返ったニャ!!」


 ――あれ、なんかセイレーンが固まってる?


「お~い、どうした~?」

「う……」

「う?」

い!! いでございますわ!!(ハァハァ……)」


 おいおい、いきなり口調が変わるんかい。思わずツッコミチョップ入れてしまったわ。つか、呼吸荒いぞ……大丈夫か?


「あ、あの、お嬢ちゃん、お名前は?(ハァハァ……)」

「ベルノニャ!」

「ベルノちゃん!! あらまあ、かわゆい事ですの!!(ハァハァ……)」


 今度は大阪のおばちゃん化しとるやないかい! 二発目のツッコミチョップ炸裂!


「ベルノちゃん! 私の子供にならない? ね? ね? 飴ちゃん食べる?(ハァハァ……)」


 おいこら。なにうちのベルノをナンパしてんだよ。飴で釣ろうとするな! 三発目の(以下略


「駄目ニャ!」


 よしよし、ええ娘や~。きっぱり断るんやで。お姉ちゃんがいればそれで充分だって!


「ネネは一人で十分ニャ!!」


 そうそう、十分! ……って、はい? チョットマテ。その文脈だとウチが母親って事にならんか? ……え、マジ? ネネって姉じゃないの? ……そこんとこ、どうなんです? ベルノさん。


〔どうやら家猫語では“ネネ”は母親らしいですね〕

「マジか、ウチは未婚の母になってしまったのか。知らない間になんてことになっていたのよ。……はよ児童手当申請しなきゃ。つか、家猫語って何なんだよ」


 あれ、セイレーンが真っ白になってる。ベルノにフラれて燃え尽きたか。まあ、命に別状はなさそうだから放っておこう。それにしても……


「セイレーンはベルノで篭絡できそうやな。ぐへへへへ……」

〔何ですかその悪役なセリフと笑いは……〕

「ベルノ、こっちおいで!」

「ネネ~!」

「はいはい、ネネですよ!」


 この際もう、母親でもええねん!


〔親バカ……〕


 ……ふん、どうせ親バカですよ~。


 親権争いは、ウチの圧倒的勝利で終わった。そして振り返れば皆の白い視線が……。黙って見ていた魔王軍と恐竜人ライズ達。皆が『早く終わってくれ』と目で訴えていた。


「さ、さてと。……待たせたな、ドライアド。勝負再開と行こう」

「いや、八白亜紀殿、拙者は……」

「――闘うのやめるとか言うなよ。今のはウチが勝手にやったことだ。勝負と全く関係ない。それともなにか? 情に流されるのがアンタの武士道か? そんなんでええんか。その刀が泣いてるで!」

〔ちょ、ちょっと八白亜紀……〕


 女神さんがかなり慌てているのがわかる。ウチの耳元で、ドライアドに聞こえない様に小声でまくし立ててきた。


〔相手は闘う気を無くしているのですよ? 挑発する必要なんてどこにあるのですか。なんであなたはそう……〕


 ウチも小声で返す。


「あるんだよ。あいつは誰に対しても筋を通す奴だ。ならばここでグウの音も出ないほどウチ達が完勝して認めさせれば、魔王と話し合いする時の仲介役になってくれるかもしれないだろ?」

〔魔王と話し合い⁉ そんな事を考えていたのですか〕

「まあ、ウチの一方的な希望だから。保険とでも考えといて」


 女神さんからしたら“話し合い”なんて不本意なのはわかっているけどさ。でもウチはウチのやり方で終わらせたいんだ。


 ドライアドは『ふぅ~』と一呼吸入れると、襟を正して刀を構えた。


「……ならば全力でやらせてもらうでござる!」

「よし、試合再開だ。ティラちゃん、タルボちゃん、ガツンと頼むよ!」

「おう、俺様達に任せておけ!」

「サクサクと終わらせますの!」


 マジでもう、滅茶苦茶頼もしいぜ!


〔それにしても……成長しましたね、八白亜紀。ふっ切れたといった感じでしょうか〕

「少し照れながらも、我が子の成長を嬉しく思う女神であった、まる!」


〔……勝手にナレーション入れないでくださいな〕






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