第51話・ハイタッチ!

 ――タルボの攻撃を受け止めて硬直したときに、すでに勝負は見えていた。


 ドライアドは右腕と左足をそれぞれ押さえられ、砂浜に倒されたまま身動きが出来ない。二人の恐竜人ライズが全力で押さえ込んでいるんだ、ドライアドと言えど起き上がるのは不可能だろう。


「よし、ジュライチ来たで~~!」


「……完敗でござる」


 ドライアドは空を見つめたまま、静かに言った。ウチにはその時の彼が、何か腫物はれものでも落ちた様な、スッキリとした表情に感じられたんだ。


〔なんと見事な……〕

「お、珍しく女神さんが感心しとるんか?」 

〔いえ、本当にお見事です。勝負に勝つばかりか、まさかティラノまで取り返すとは……〕


 ……なんですと?


「……ティラちゃん、ウチの恐竜人ライズに戻ったんか? マジで? いつ……。え、マジで?」

〔何故に本人が気が付いていないのですか。八白亜紀、指示を出さずともあなたの意思通りに動くということは、“そういうこと”なのですよ?〕

「それってウチとティラちゃんの絆が、ジュラたまの力を上回ったんだよな?」

〔そうですね。その判断で正しいと思います〕


 振り返るティラノ。そしてフラフラと駆け寄るウチ。


「ティラちゃん!」

「おう、亜紀っち!」


 ――太陽の下『パンッ!』と響く音。


 そこには……太古の砂浜で“令和のアラサー猫耳少女”と“白亜紀の暴君ティラノサウルス少女”が、砂まみれになりながらハイタッチをしている光景があった。


「テ、ティラノさん~。良かったです~」

「良かったでございますわ!」

「ティラニャ~!」


 あとは、そこに這いつくばっている初代はつしろ新生ねおからジュラたまを取り返せばミッションコンプリートだ!


「……なんか照れるゼ」

「ああ、これはティラちゃんの貴重な照れ顔。誰かスマホ持ってないか、スマホ。これはルカちゃんにも見せたかった~」

「あ、ルカと言えば……亜紀っち、さっき初代新生アイツを殴ったのはもしかして」

「そうそう。ルカちゃんにコツを教えてもらったんだ。コークスクリューパンチの打ち方」

「やっぱりか~。なんか見覚えあるパンチだと思ったよ!」


 流石、妹分の事はしっかり見ているんだな。

 それにしても、なんというか……ホント皆の協力でなんとかなったんだ。ありがたいなんてもんじゃない。ホッとしたら、なんか感情が爆発してあふれてしまったのだと思う。気が付くとティラノとタルボをまとめて抱きしめて……号泣していた。


 少しして……これは、多分ウチの感情を読み取ったのだろう。涙がおさまった頃にガイアが声をかけてきた。


「マスター……初代新生これどうしますか? デス」

「ああ、そうだ……ぐすん。ちょっと待ってね……」


 初代新生がどこにジュラたまを持っているかはわかっている。ティラノがレックス・ブラストを撃った時、ジャケットの左ポケットから光が見えたんだ。動けない人間から物を取るってのはちょっと抵抗があるけど、これはそもそもウチのジュラたまなんだから毅然きぜんとした態度で取り返さなきゃだ。


「……これでよし。ガイアちゃん……何気にMVPだよ!」  


 邪魔が入らないのが、どんなにやりやすかったか。サムズアップしといたけど、ガイアの目に映っているのだろうか?


 そしてティラノのジュラたまを、左の薬指にはめた。 



 ――その瞬間!



 ……ウチは体力の限界を迎えて砂浜に顔面から突っ伏していた。


「タルボちゃんのジュラたまを付けたままだって忘れていたよ……」

〔はぁ……おきつきなさい、八白亜紀〕


 その後、ラミアの“こみこみヒール”で何とか回復したウチ。残る問題は、チーム新生の恐竜人ライズ達だ。


初代新生こいつ自身は今更どうでもいいんだけど、ケーラちゃん達を解放してあげないと」

「くそっ、ふざけるな、誰がお前なんかに……」

「そうは言ってもさ、お前は今なにも出来ないだろ。黙ってジュラたま奪っても良かったんやで?」


 う~ん……何だろう、やはり黙って奪うのは抵抗があるな。こうゆうの現代だったら強盗罪になるんだっけ?


「なあ、初代新生。自分からジュラたま差し出してくれないか?」

「そんなん奪っても同じだろ。なんでオレがやらなきゃならねぇんだよ」

「もう、このに及んでわがまま言うなよ」

「欲しければオレを殺してでも奪えばいいだろ。ま、どうせ出来ねぇだろうけどな」


 ウチが強引な手を使わないってわかっていて、笑いながら『殺せ』とか言ってくるんだもんな。初代新生も根は悪い奴じゃないと思うんだけど、この尖り過ぎた性格は流石にちょっと引くわ。


「ん~、これは……どうすれば大人しくジュラたま渡してくれるんだろ?」


「——ああ、それはね」


 ……ん? この声はアンジー?


初代新生そいつを殺せばいいんだよ!」


 無慈悲な一言と共に翼竜から飛び降りたアンジーは……その手に持つ剣で、初代新生の左胸を刺し貫いていた。






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