第52話・八白と初代とアンジュラと。

「ちょっ、アンジー! なんてことを!」

「ん? どうしたの八白さん」

「どうしたのじゃなくて、死んじゃうじゃん!」

「いや、殺そうとしたんだけど、何かしぶといね」


 ――ごめん、アンジーは大事な仲間だって思ってる。本当にそう思っているんだけど、目の前で初代新生が死にかけているのを見て……思わず突き飛ばしてしまった。ショックだったんだ、血を吐いて痙攣起こしているのに、剣を刺したまま平然としているから……。


「ベルノ、頼む!」

〔放っておきなさい、八白亜紀〕

「そんな事出来る訳ないだろ。確かに初代新生こいつはムカつくし最低だし殺しても飽き足りない奴だけどさ」


 アンジーは異世界のモンスターと戦って、“そういう事”をやってきて慣れているのかもしれない……。でも、それでも殺したらだめだ。こいつには


「ミアぴ! ミアぴも手伝って!」


「りょ。亜紀ぴ、ありよりのありな!」

(訳:もちろん! 亜紀ぴの頼みなら全力でやるよ!)


「私も手伝いますわ。恩返しってわけじゃないけど」


 セイレーン!? ……いや、今はなんでもいい。誰の手でも借りたい!


「すまん、頼む」

「ベルノちゃんと共同作業ですわ~(ハァハァ……)」


 ……まあ、今は何も言わんでおこう。この三人に任せるしかないのだから。



「——何でそんな簡単に殺そうとするのさ!」



 気が付いたらアンジーに向けて言葉を放っていた。わかってはいたはずなんだ、“敵は容赦しない”という彼女の考えは。でもどこかで彼女を自分の理想像としてしまっていて、アンジーは誰も殺さない人だとウチが勝手に思い込んでいただけなんだ。


「でも、この達を解放してあげたいんでしょ?」

「そうだけど、でも、ちゃんと話し合いで……」

「話が通じない相手となにを話すの?」

「――っ」

「八白さんは“会話が成立しない相手がいる”ということを知るべきじゃないかな?」

「でも……それでも……。殺すとかは………………駄目だ」


 何ひとつ反論が出来ない。言葉が出てこない……


「八白さんの大切な仲間が殺されようとしていたら、殺そうとして来た相手は力で止めるしかないんじゃないの? 話が通じないならなおさらでしょ? どこかで線を引かないと、絶対に解決はしないよ」


 言いたいことはわかる。理解は出来る……でも納得は出来ない。殺して解決するとか最悪のケースじゃないか。だからウチは……


「ウチが、自分自身が力をつけることで……初代新生こいつの力を上回ることで、争いを起こさせないようにって思って……」

「でもそれは、力に対して力をぶつけてるよね? 力を見せて相手の戦意を無くさせる。それは対話と違うんじゃないかな。つまりは話し合いに応じない相手には力を見せるしかないって……八白さん、自分で言っていることにならない?」


 だめだ、ド正論すぎてなにひとつ言い返せない。力もないし頭もないし仲間を回復させる事も出来ないし……マジでなんも出来ないじゃないか、ウチって……。

 なんか色々と考えていたら、迷いが顔に出ていたのかもしれない。気が付くとティラノが横に立っていて……。握りこぶしをウチの顎にぐりぐりと押し当てて来た。


「ちょ、ティラちゃん!?」


 ……なにこれ、めちゃイタズラっぽい笑顔でぐりぐりして来てんだけどー?

 あれ? ずっと下向いてて気が付かなかったのか……プチ、ガイア、ラミアとベルノも、ウチを見てニコニコしてる。意味がわからんくて……でも嫌な気分じゃなくて。


〔きっと彼女たちにとって……八白亜紀、あなたの考え方が心地よいのでしょう〕

「そういうことなのか? このままでいいのか? なにひとつ反論できないんだぞ……?」

「亜紀っち、ブレんじゃねぇぞ!」

「いいのか? このままで……」

「ったりめーだろ!」

〔否定でもなく、対抗でもなく、共存。それがあなたの立ち位置なのですね〕


 ウチは一呼吸を入れて、言葉を選んだ。伝言えたいことを一つ一つ重ねていった。


「アンジー、あまり上手く言えないんだけどさ……。ウチは誰かを犠牲にしてその先にある未来って考えられないんだ。もちろん初代新生こいつは殺したいほど嫌いだけど、だけど、一線を越えたら“みんな”を裏切ってしまう気がする」

「まあ、八白さんは最初からそういうスタンスだったよね。あ、嫌いじゃないよ、そういうのは」


 ウチの考えを理解はしてくれているんだ。なんとか上手く伝えなきゃ。言葉を探さなきゃ……


「そ、そしたらさ、アンジー。うちら……」

「だけどさ……」



 ――この時、アンジーの雰囲気がガラッと変わった。 



「このままだと、最後は私達で闘うことになりそうだね」






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