第149話・草食系男子

 広い空間にポツンと佇み一行の行く手を阻んでいるの細身の男。黒のスキニーパンツに緑系のネルシャツを合わせ、フチの太いメガネをかけた軽い猫背の青年だ。背中から生えている無数のトゲ角を除けば、令和時代のどこにでもいるの草食系男子そのものだった。


「これは……知っている、俺様は知っている!」

「ほう?」

 目を輝かせながら力説を始めるティラノと、喰いつくミノタウロス。

「こういうのは一人ずつ残って戦うんだ」

「タイマンっで事か。ぞれば面白ぞうじゃないか」

「うむ、望むところだと言わせてもらおう!」

 こうなるともう、ウェアウルフも黙っていられない。テンションが爆上がりする、竜狼牛のアタッカーチーム。良くも悪くも闘争心の塊の彼らには、未知への疑問よりも闘いそのものが気になる様だ。

「え~と……『ここは俺が食い止める、お前たちは先に行け!』って言いながら一人残るんだ。先に行くとまた部屋があって別の敵が待っているんだぜ!」

「なんざますの? その変な知識は」


 ……聞かないでくれ、間違いなくウチだ。


「全員でさっさと潰して次に行った方が効率が良いでヤンスよ」

「一人ずつ残る意味が解らないざます」

「姉っち、それがロマンってもんだろ?」

「ごちゃごちゃごちゃごちゃ煩いのう。さてはおぬしら、我に勝てる自信がないのであろう?」 

 ティラノ達の会話を鬱陶うっとうしく感じたのか、それとも存在を無視されているのが気に入らなかったのか、第二の刺客は会話に割り込み煽って来た。

「つーかお前さ……」

「お前ではない。きちんとデスマトスクス様と呼べ!」

「いや、名前初めて聞いたし」

「……」

「んで、デスっちさ。何でそんなしゃべり方なんだ?」

 あか抜けない感じの青年が横柄な口調で話すという違和感。先ほどのキピオといい、このデスマトといい、微妙にヒトとしてのバランスがおかしかった。


「あ、いや……ダスプレ爺さんから、話し方を無理やりレクチャーされて。『それがギャップ萌えなんじゃ~』とか意味の分からない事を言っていて。それで、誰か来たら『この私を倒せ!』って言えと。だからまあ、その……多分、そんな感じです。倒してください……倒せるのなら。無理でしょうけど……。え~と……クソガキども」

 

「……なんがハッギリじない言い方なのに煽っできやがるな」

「ガチで煽れとも言われてますので……すみません。さっさとかかってきやがれ犬コロ。ああ、申し訳ない……」

「でめぇ、犬言うな!」

 ダスプレトが原因とは言え、イマイチ性格がつかみづらいデスマトスクス。無数のトゲ角で襲って来るわけでもなく、ぼ~っと立っているだけだった。

「え~と、これって……戦っていいのか?」

 誰に確認すれば良いのか解らず、振り返りながら皆に許可を求めるティラノ。

「あ、多分いいと思います……。すみません」

「それじゃあ、まあ……」


「——皆さん、ちょっと待って下さいな」

 戦い始めようとした矢先、止めに入るメデューサ。顔をあげ、何もない空間に向かって話し始めた。

「ダスプレトさん、聞こえていますわよね?」

〔……うむ、何用じゃ?〕

「明確なクリア条件を提示していただきたいですわ。無駄な戦いは面倒ざますから」

「何を言うメデューサ。戦いはロマンであろ……」

「ミノ、うっさいですわ」

「モ……」

 メデューサの鋭い眼光に絶句するミノタウロス。まるで石にでもなったかのように固まっていた。

〔そうじゃの。では、そこにおるデスマトの首に掛かっているタリスマンを手に入れたらクリアとしよう〕


「よし、ならばここは……」

 ティラノ達が狙っていたこの時。神経をとがらせて待っていた『俺に任せて先に行け!』というセリフを言うベストタイミングだ。ロマンを求める竜狼牛が口を開こうとしたその瞬間。


「オイラにまかせて先にいくでヤンス!」


 ……ロマンを横取りした蜥蜴とかげがいた。


「……」


「トカげっちぃ~。それ俺様のセリフ」

「いやいや、ワシのセリフであろう」

「何を言うが、オレにまがぜで……」

〔……おぬしら、一体なにを言っておる〕

 口調からもわかる、ダスプレトサウルスの呆れた声。

「だってよ~。これってそういうもんなんだろ? 仲間を一人残して先に進んで、後ろ髪引かれながら『あいつを信じるんだ!』って胸熱展開ロマンじゃないのか?」

〔条件を満たさねば扉は開かぬし、五部屋もある訳がないじゃろう。どこの誰がそんな事を言ったのじゃ。まったく、はた迷惑な……〕



 ……聞かないでくれ。






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