第148話・第二の刺客

「ぶぇっくし!!」

「何だティラノ、風邪でもひ……ひ……ぶおっぷし!」


 キピオを捕まえ、先に進む条件を満たしたティラノ達。ダスプレトサウルスの声に導かれるまま滝をくぐると、そこには縦横二〇メートル程の広さがある洞窟が続いていた。足元から天井まで、洞窟全体がほんのりと光を発している。これは“ひかりごけ”の様なものが、一面に生えているからなのだろう。

 そんな中を、ティラノとミノタウロスを先頭に四人が後ろに続いた。


「ミノっちもじゃねえか」

「お主のせいであろう」

「無理もないざます。まさか本当に落ちるとは思いませんもの」



 ――数分前の事。

 滝をくぐれと言われたものの、かなりの深さのある滝壺をどうやって渡るか思案していた面々。

「よし、決めたぜ」

 そんな中、即決即断即決行しようとしたのがティラノだ。

「泳ごう!」

 この低気温の中にあっても泳ぐ気満々のティラノ、肩を回し屈伸をして気合十分だ。これには流石に全力で止めにかかる魔王軍の四人。

「落ち着くざます」

「もうちょっと考えてから行動するでやんすよ!」

「だってよ~。それ以外にないだろ?」

 メデューサはティラノにニコリと笑いかけると、魔石の付いた杖を顔の高さに上げて呪文の詠唱を開始した。三つ四つ文言を繋げ杖で滝の方角を指すと、足元の浅瀬から滝壺を突っ切って、滝の奥へと氷の道が伸びてゆく。


「マジか……姉っちすげぇな」

「平らな道ではないので、ゆっくり慎重に進むざます」

「ミアっちの飛ぶ魔法もだけど、戦う以外のこんな使い方もあるんだな……」

 当然の話だが、ティラノは魔王軍と出会うまで“魔法”というものを全く知らなかった。

「氷の道なんて初めてだぜ」


「ティラノ姉さん、かがりつかないとコケるっちゃよ」

(訳:ティラノ姉さん、しがみつかないと転びますよ)


 だから魔王軍との邂逅以降、次々と目の前で起こる不思議な現象に心がたかぶっていたとしても仕方の無いことなのだろう。もしかしたらアクロが粛々と状況を受け入れている分、相対的にティラノの奔放さが目立っているのかもしれないが……。

「これって意外と丈夫なんだな」

 足元の氷をガシガシと蹴り、跳ねながら歩くティラノ。見ているだけで不安になったのか、すぐ後にいるミノタウロスはいさめようと声をかけた。

「ティラノ、止めとけ。落ちるぞ」

「大丈夫だって。この俺様が滑るとでも……」

 

 ……と、振り返った時だった。


「あっ……」

 ――ドボンッ!

「なんだと!?」

 ――ドボボンッ!!

「あ~、やってしまったでやんすか……」

 浮かれていたであろうティラノは“皆の予想通り”足を滑らし、華麗に頭から滝つぼに落ちた。そして落ちる瞬間……無意識に、たまたま手に当たった何かを掴んでいた。

「ミノはん、巻き込まれたでヤンスね」

「あらあら、仕方がないざますわね」


「ティラノ、貴様何をするか!」

 滝つぼに引き落とされたミノタウロス。 

「おう、悪りぃ悪りぃ」

「まったく、お主というヤツは……」

「ついでだからよ、このまま滝まで勝負と行こうぜ!」

「……ついでの意味が解らんぞ」

 何だかんだ言いながらも、結局ティラノとミノタウロスは水泳勝負に興じてしまうのだが……


「ぶぇっくし!!」

「ぶおっぷし!」

 ……今に至る。



「しかし、ここは無駄に広いでヤンスね」

 洞窟と呼ぶには違和感を覚える程の広さ、何も遮るものが無い大空洞だ。だからなのだろう、湿気を乗せた風が常に吹き抜け、外にいた時よりも更に体感温度が下がっている。

 そもそもここは死期を悟った恐竜達が訪れる聖なる場所への入口。十メートルを超える生物からしてみれば、特别広いという事もなかった。もちろん滝壺の深さも問題はない。

 ここは全てがオーバースケール。つまり、そもそもが人間サイズの生き物が来る場所ではないという事だった。


「ん? あれは……」

 滝をくぐり抜けてから二~三〇分程歩いただろうか、奥の方で光が差し込んでいるのが見えた。

「あそこ、何かありそうざますわね」

「強え~奴いるかなぁ?」

「ティラノさん、楽しそうなのは何よりですが、もうちょっと慎重に進まないと……」

「でもよ、俺様達がここにいるのはバレてんだろ? だったら隠れて歩く意味ねぇじゃん」

「うむ、その点はティラノに賛同するぞ!」

「いやいや、ミノはん。バレているからこそ罠の可能性を考えないとでヤンス……てぇぇぇ」


 ――いきなり走り出したウェアウルフ。


「先にいぐぞ!」

「あ、ずり~ぞ犬っち!」

 出し抜かれ、慌てて走り出すティラノとミノタウロス。

「忘れていましたわ。近接アタッカーのヒトってあんなのばかりでしたわね……」 

「メデューサ、それ偏見でヤンス……」

「あら、否定出来まして?」

 すでに遥か先に行ってしまった三人。止まる事を知らない三人。リザードマンはチラリとだけ目を向け、諦める様にボソっと呟いた。

「……いや、そうかもしれないでヤンス」

「みんな元気っちゃね~」

 アクロは呆れながら、手に持つ一凛の白い花に語り掛けていた。移動前に摘んで来た水辺に自生していた花。岩陰に、静かにたたずむ様に生えていた花を妙に気に入ったらしく、指先でつまんでクルクルと回している。


「犬っち速えぇ!」

「犬だからであろう」

「犬言うな。狼だ!」

 流石に脚力勝負はウェアウルフに分がある様だ。これはそもそもの身体特性によるところが大きいのだろう。

 光が差し込む場所は、今通って来た洞窟よりも更に広い空間が広がっていた。ここは恐竜サイズの部屋という事なのだろう。見上げるとそこには青空が広がり、そこから差し込む太陽の光が部屋全体を照らしている。

「待て、誰かいるぞ……」

 背中の大剣に手をかけるウェアウルフ。その視線の先には一人の異形の者がいた。


 先ほどと同じく試練の為に待っていた者。人間の大きさに具現化されている霊体。しゃがみ込んだままではあるが、背中から伸びている無数のトゲが、無闇に近づくのは危険だと語っていた。

「待ちわびたぞガキども。この先に進みたければ、この私を倒してから進むが良いぞ……多分」






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