第95話・V
「小賢シい。お前ではワシに傷ひとつつケられぬぞ」
「それはどうかしら? 行きますわ。レックス……」
トリスは空中で体をひるがえすと、その態勢のままバルログに向けて突っ込んだ。狙うのは弱点の頭部。しかしそんな単純な狙いは当然バルログもわかっている。更に言えば一度見ているスキルだ。光が収束し、青い点が示す位置から離れれば当たらない。
トリスが急降下してくるのを確認し、数歩横にずれて座標をずらした。何もない所に着地するトリス。
「ヒョヒョ、当たらナければ意味がないゾ」
「いいんだよ、それで」
バルログが声の方に視線を向ける。その時すでに初代新生は、バルログの左側に走り込んでいた。
「トリス、二撃目!」
「——アポストル・ヴァリアント!」
トリスは技を外したのではなく、そこに
足元から鋭い衝撃がバルログの身体をかすめて突き抜けて行く。炎の魔人というだけあって、その身体は魔力で守られているのだろう。だから物理攻撃だけではダメージが通り切らないと判断したトリスは、ディザスターの傷口に沿って飛び上がり、レックス・アポストルが発する光エネルギーでダメージを重ねる。
ディザスターで切られた傷口は更に広がり、血が噴き出る。そして目の前を走る強烈な光に目を瞑るバルログ。
「ベルノ、飛べ!」
「いくニャ!!」
その隙を狙い、ベルノは初代新生の肩を足場にして飛び上がる。
猫人の脚力とは言っても相手は巨人、腰くらいの高さまでで精一杯だ。しかしベルノが飛んだ先にはガイアの
バルログが目を開けた時には、ベルノはすでに左脇腹の傷に左手をあてていた。
「痛いの痛いの……」
ベルノは左手でバルログの痛みをとりながら、傷に沿って並べられた
「ヒョ? ワシの傷を治して取り入ろうとでもいうのかや?」
「アホかお前。ここにはそんな奴は一人もいねぇよ」
相変わらず口だけは達者な初代新生。自身は、地面に突き立てた剣鉈を支えにして、倒れない様に必死な状態なのに。
「そうかや。なラば殺しテいいな」
バルログはベルノを叩き落とそうと、右拳を打ち下ろした。ベルノはそれでも足を止めず、ひたすら階段を駆け上がる。
ゴツイ灼赤色の拳は寸分たがわずベルノを捉えていた。それ故、攻撃が来る場所を推測するのは容易かったのだろう。バルログの拳がベルノに当たる瞬間、ティラノがそこに割り込んで来た。拳を受け止める為に、両腕をクロスしてガードを固めている。
――そして、骨が砕ける鈍い音が響いた。巨体から繰り出される拳撃だ。パワーも耐久力もトップクラスの彼女の力をもってしても、無傷という訳にはいかない。両腕とも骨が折れ、身体にも相当なダメージを喰らってしまった。相当な痛みがあるはずなのに、これは意地なのだろうか……ティラノは呻き声一つ上げない。
魔術師でありながらこれだけのパワーと体力、フィジカル面も
ティラノはバルログを睨みながら、静かに口を開いた。
「……お前の負けだゼ、バルログ」
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