第94話・防御のなんか

 ティラノの木刀に集約された闘気オーラが一気にとき放たれる。その威力はレックス・ブレードの比ではなく、火山の噴火にも匹敵するような、まさしく天災ディザスターだった。

 バルログはよほど自信があったのか、それともなにも考えていないのか。分裂体が合体して一人に戻ると、逃げることもなく魔障壁マジック・バリアを展開し、正面からレックス・ディザスターを受け止めようとしていた。


 ――これはティラノの闘気オーラと、バルログの魔力との勝負だ。


 最恐ティラノが放つレックス・ディザスターが、炎の化身バルログが展開する魔障壁マジック・バリアにぶつかり、ぜたような轟音が大気を震わせたいた。

 それにともなって発生した衝撃波は周りの枯れた木々を薙倒し、砂嵐を巻き起こした。皆が隠れられるだけの大きさの岩とラミアの魔障壁マジック・バリアがなければ、吹き飛ばされていたのは確実だっただろう。弾丸の如く飛んできた小石はガイアの虹羽根アイリス・ウイングがしっかりガードし、少なくとも大岩の周囲だけは元の状態を保っていた。


「とんでもない威力ですわね」


 数メートル先に吹き荒れる嵐を見ながら口を開くラミア。その言葉を受けて、バツが悪そうな顔をしながら人差し指で頬をポリポリとかく初代はつしろ新生ねお


「マジで……オレの……」

「新生のせいなのニャ!」


 ……容赦のないベルノであった。


 暴風がおさまり、辺りがシーン……としたのを見計らって、ベルノが大岩の陰からヒョコっと顔をのぞかせた。皆もつられて、ティラノの安否を確認しようと覗き始める。

 更地の様にまっ平で、それでいて焼け焦げているわ血の染みはあるわのカオスな空間、そしてその中心にはボロボロの姿で立ち尽くすティラノと、血だらけのバルログがいる。


 ティラノの剣筋はバルログの右肩から左膝の辺りまで、ザックリと袈裟斬りにしていた。その絵面えずらだけなら“ティラノの辛勝”と見えたかもしれない。しかし……


「ちっ、まだ足りねぇ……」  

「ヒョ……ヒョ……。そんなものかや、最強の技というのは……」


 かなり深い傷であることは間違いない。事実、バルログは機動性を失い、その場から動けずにいる。しかし、残念ながらバルログを倒す程のダメージにはなっていなかった。


「ティラノなにやってるニャ。もっかいやるニャ!」

「すまん、無理なんだ……」


 。レックス・ディザスターを構えている時に何度も聞こえて来た『パキッ』という音。そして今……


 ――バキッッッッ……


 更に大きい音がティラノの手元から聞こえ、木刀は砕け折れてしまった。


 即興未完成のレックス・ディザスターとは言っても、気象に影響が出てしまう程のとんでもない威力の技だ。それでもバルログを倒せなかったのは、木刀が耐えきれずにヒビが入り、技の威力を出し切れなかったからなのだろう。


「ヒョヒョ。貴様らニはもう攻撃手段はナかろうヨ」


 しかし言葉とは裏腹に息が荒いバルログ。相当なダメージを負っているとみた初代新生は、剣鉈を構えながら皆に聞いた。


「——まだだ。みんな動けるか?」


 もちろん答えはわかっていが、最後の攻勢を仕掛けるために必要な問いだった。


「当たり前ニャ」

「では、神使のわたくしもお供いたしますわ」

「ティラノも……諦めてない。デス」


 戦国武将が味方を鼓舞する様に、初代新生のこの問い掛けはみんなの気持ちを高めていた。そしてそれは、ティラの耳にも届いていた。


「トリス、上から頼む。思いっきり。ガイア、今から言う位置にその板を固定出来るか?」

「わかった……やってみる。デス」


 覚醒したかの様に、テキパキと指示を出し始めた初代新生。


「ラミア、ベルノに防御のなんかを!」


 ……しかしここは適当だった。流石にJKが魔法の種類など知っているはずもないのだから。


 トリスは急上昇するとバルログの視界に入る高さで止まり、ランスを脇に構えながら声高々に宣言した。


「神の御名のもと、神使しんしであるわれが、バルログ、お主を討つ!」


 空を覆う黒い雲の隙間から太陽の光が差し込み、トリスとその得物であるランスを、神々しく輝かせていた。






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