第93話・天災

 確かに初代新生は『オーラを収束しろ』と提案した。しかし、ここまでの事態になるとは考えが及んでいなかったと思う。いや、むしろこの天災とも言える状況を想定できる者なんていないだろうな。

 ティラノ本人も木刀に収束したエネルギーに振り回されている様だ。足元が少しフラつくような素振そぶりを見せながらも、なんとか踏ん張っている。


「あの竜巻みたいなオーラ、どんどん大きくなってますね……」

 ラミアの口調は冷静だが、目の前に発生している強大なエネルギーに、顏はこわばり冷や汗が頬を伝っていた。

「バカティラノは加減を知らないニャ!」

「いや、そうじゃなくてよぉ……」

 困惑した表情で仲間の方を振り向くティラノ。

「新生っちぃ~。これ、どうやって止めればいいんだ?」

「んなもん知るかよ……。とりあえず撃っとけ」

「マジかよ。どうなっても知んねぇぞ……」

「みんな……下がった方がいい。デス」

 生命エネルギーである“マナ”が見えるガイアには、この異常事態が理解できているのかもしれない。普段からあまり感情を表に出さず、表情に変化がない彼女の頬を汗がつたう。

「皆さん、こちらへ!」

 ラミアは岩陰に皆を誘導すると魔障壁マジックバリアを展開し、防御を固めた。それに続いてガイアも虹羽根アイリス・ウイングを展開。大岩と魔障壁マジックバリア虹羽根アイリス・ウイングとで、三重の防御壁を作り上げた。


 黒い雷雲がティラノに引き寄せられ、辺り一帯は薄暗くなってきた。視界に移る空は全てが灰色で、つい数分前の爽快な青空はひとかけらも残っていない。

「ティラノ……頑張れ。デス」

「ティラニャ~。気合ニャ!」

「みんなで応援してますよ、ティラノさん」


「……岩陰そこから言われてもなぁ」

 流石に苦笑いしか出来ないティラノ。木刀に絡みつく様にうねるオーラは更に大きくなり、今もまだ膨らんでいる。嵐の様に吹き荒れ、ティラノを中心に暴風域を展開。周りのモノを全て吹き飛ばす勢いになっていた。


「一つ思ったのですが……」

 多分、皆が思ったであろう疑問を、トリスが初代新生にぶつける。

「あれって、普段のレックス・ブレードよりも周りに悪影響が出ていません?」

 これは完全に初代新生の誤算だった。漫画か何かで観たような『土壇場で機転を利かせて新技を編み出して敵を倒したぜ~』みたいな展開を考えたのだろうけれど……。

「オ、オレのせいかよ……」

 しかし現実は、単なる力の暴走だ。流石に皆『誰かのせい』と言うのには抵抗があったが……

「間違いなく新生のせいニャ!」

 何者にも忖度しないベルノの直球は、こういう場面で意外と役に立つ。


 暴風は激しさを増し、更に膨れ上がっていった。頭上の黒い雲は時折その中で雷が光っている。そして、細かい雨粒は風に乗って、周囲の岩や木そしてバルログを激しく打ち付けた。『ジュッ』と小さな音を立てて水蒸気化する雨粒。バルログから発生している大量の水蒸気は、そのまま黒い雲に吸い寄せられ更に膨れ上がっていく。


 ティラノからしてみたら、自分でも制御出来ない“コレ”を、本当に撃ち込んでしまって大丈夫なのか? という心配が先に立っていたのだろう。しかしそれでも、頭上にある強大なエネルギーの塊を維持するのは難しく、今でも手に余る現状。それがこれ以上大きくなってしまったら始末に負えない。

 そんな時に、ティラノの耳に『パキッ……』という微かな音が聞こえて来た。それも一回ではなく、断続的にだ。


「おっさん、頼むから死ぬなよ……」

 軸にしている右足は、あまりの加重のため地面に食い込んでいた。しかし今はそれが一助となっているのも確かだ。軸足が固定出来ていなかったらティラノ自身も吹き飛ばされていたかもしれない。

「行くぜ……」


 ――パキッ 


「レックス……」


 ――パキッ


「ディザスター!!!」





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