ジュラシック・テイル ～猫耳転生と恐竜少女～

第96話・超タッチダウン

　ルカやタルボがパワーアップして新たな力を手にした様に、ベルノの能力にも大きな変化が起きていた。しかしこれは、多分本人もわかっていない。フリーダムな生き方と同じく、直感だけで動いていた様なものだろう。

　今までのペインスローは、触った箇所の痛みと怪我を取り、投げる事が出来るというスキルだった。投げた“痛い”に当たると、痛みと怪我がそのままダメージとなって反映される。実際ウチの怪我を投げた時に、枯れ木の枝が折れたりした事もあった。

　しかし今のベルノは、右手と左手で別々に痛みと怪我を分けて取り去る事が出来る様になっていた。そして特筆すべきは、一つを両手に半（・）分（・）づ（・）つ（・）分（・）け（・）る（・）という意味ではないという事。

　本来、痛みと怪我は別のものだ。怪我があって痛みが発生する。病気になったから苦しさが発生する。これを一つの事象とせず、先（・）に（・）痛（・）み（・）を（・）取（・）り（・）、（・）そ（・）の（・）後（・）怪（・）我（・）を（・）取（・）る（・）事（・）で（・）、両手にそれぞれ一つずつの“痛い（ダメージ）”を持つ事が出来る様になっていた。

　痛みから取ったのは、先に怪我を取ると痛みが消えてしまうからだ。単純な治療目的なら怪我を取り、攻撃に転じるのなら痛みから取る事でダメージ量が倍になるという、何気にとんでもない能力に変化していた。

　もっとも、この行動は完全にベルノの“勘”でしかない。間違いなく、理解して動いていないと断言できる。

　加えてこの時、ベルノの中に流れ込んで来た力があった。自身の身体能力やスキルが底上げされる！

　ベルノはバルログの肩からジャンプし、身体をひねりながら左手の“痛い”を頭頂部めがけて投げ、そのモヤっとした“痛い”に、右手の怪我を打ち込んだ！

「超タッチダウンニャ！！」

　壁を壊した時と同じ様に、痛いと怪我が融合し、その威力は元のダメージの数倍に跳ね上がる。巨大なバルログの弱点である頭部に、小さな巨人ベルノが最大のダメージを叩き込んだ！　

　響く轟音。反して一言も発する事なく、仰向けに倒れるバルログ。

　同時に力を使い果たしたベルノも『ふにゃぁ……』と三メートルの高さから落下する。ティラノは両腕が使えない上、身体中が砕けて動けない。初代新生も咄嗟に反応出来る体力は残っていなかった。ガイアは虹羽根（アイリス・ウイング）を操作して受け止めようとするが、小さくコロコロと転がる家猫の幼女を上手くキャッチすることが出来ずにいた。トリスもラミアも離れすぎている。

「ベルノさん！」

　痛みをこらえ走り込むティラノ、着地など考えずに突っ込んでくるトリス。二人とも身を挺してベルノのクッションになろうと急ぐ。しかしそのいずれもが到底間に合わなかった。

　――このままでは頭から地面に激突してしまう！　誰もが目を覆うその時、一陣の風が駆け抜けベルノを掴んだ。

「ふう、ギリギリだっただすな（キリッ）」

「……キティニャ」

　キティは両手でベルノを抱きかかえると、ザザザ……とブレーキをかける。砂煙が一直線に伸び、三～四十メートル程伸びて止まった。

「ナイスキャッチですわ！」

「……毎回毎回どこから出て来るんだよ、アイツは」

　初代新生からしてみたら、キティは『何もない所から突然現れる』という印象なのだろう。悪態じみた口調でも心底安心した様だ。皆はその言葉に、喜びの感情を感じ取っていた。

「ベルノ、無理はダメだすよ（キリッ）」

「このくらい大丈夫なのニャ。ベルノは神なのニャ！」

「いや、その神ってのがよくわからんけどよ。手にダメージ残ってんじゃんか」

　普段ならノーダメージのペインスローだが、今回は吸い取った力が許容範囲を超えたのだろう。ディザスターとアポストルの強大なエネルギーを一瞬とは言えその小さな手に宿した代償。ベルノの手はズタズタになり、血がしたたり落ちていた。

「ティラノも腕折れてるのニャ……」

「みんな、ボロボロだすな（キリッ）」

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