第97話・神使とは……
「ラミア、ティラノ達を回復してやってくれるか?」
「当たり前ですわ」
嬉しそうに笑うラミア。
「なんだよ、なに笑ってんだよ」
「亜紀ぴが言っていた通り、あなたも根はやさしいのですね」
「う、うるせぇ。しゃべってないで……」
「はいはい、すぐに回復しますわよ」
照れる
「ベルノさん、この技は出来るだけ使わない様にしてくださいね」
「そうしてくれ。ベルノに怪我させたら亜紀っちに顔向けできねぇからな」
「仕方ないのニャ。ベルノも痛いのは嫌なのニャ。だからバカティラノ……」
「な、なんだよ……」
「さっさと技を完成させるニャ」
藪をつついてベルノが出た。ティラノはバツが悪そうに折れた木刀を見つめていた。
「あとは毛玉ニャ!」
「お、おう、覚悟しやがれ……」
……。
「ニャ……?」
「え~……」
毛玉ことグレムリンがいた“はず”の場所には、乾いた風が砂埃を舞いあげているだけだった。
「逃げやがったニャ!!」
「あんの野郎!!!」
呆れ気味に初代新生が、それでも申し訳なさそうにぼそっと呟いた。
「……まあ、ディザスター構えてた辺りで逃げてたよな」
「一目散……全力疾走。デス」
どうやらティラノとベルノ以外は気が付いていた様だ。あえて口に出さなかったのは、頭上に
「そんなことよりティラノさん、腕の治療させてください。あの状況で千切れ飛ばなかったのは奇跡みたいなものなのですよ?」
「ちぎれ……って、怖い事いうなよ、ミアっち……」
♢
「ビョ……ヒョ……」
「お、気が付いたみてぇだな」
体を起こし、辺りを見回すバルログ。“負けた”という事実の認識は出来ていたのだと思う。うなだれ、頭を押さえながら、静かに口を開いた。
「ワシは負ケたのかや……」
「まあ、気にすんな。俺様達が強かっただけの話だぜ」
「ヒョ……もう帰ることも出来ぬ……さっさと殺セ。強き者達よ」
負けて帰ったら処刑でもされるという意味なのだろうか? 漫画とかでは“悪役を引き立てるために”ありがちな話ではあるけど、実際、命を懸けて戦った者の末路が処刑とかありえん。……それ以上に、そんな魔王軍は許すことは出来ない。
きっとその感情はみんなに伝わっているのだと思う。
だからここからは生かすための交渉だ。
「何言ってんだよ、おっちゃん。死ぬくれぇならよ……」
ティラノは仲間を見渡した。みんなは彼女が言わんとしている事を理解し、笑顔で返す。
「そうですわね、亜紀ぴなら……」
「うん……言うと思う。デス」
それぞれの顔を見て確信したティラノは、バルログに提案を持ちかけた。これだけの強大な魔力を持った魔族が仲間になってくれるのならこれほど心強いことはない。
「なあ、良かったら俺様達の仲間に……」
――しかし! ここでまたもや猫幼女のフリーダムパワーが炸裂する!
「白亜紀の
ティラノの股下から顔を出し、バルログをビシッと指差すベルノ。
「ですから
「ヒョ……いいノかや? このワシを使い魔にしていタだけると?」
「それが“ごんたく”なのニャ!!」
“じぇんとるめん”とか“ごんたく”の意味が通じていたとは到底思えないが、それでもバルログは晴れ晴れとした表情でベルノを見ると、嬉しそうに口を開いた。
「感謝いたス。小さき神よ」
……バルログも大概ハッタリに弱かったのだろう。
「アホか。なんだよ、この状況は……」
ぐったりとしながら悪態だけは忘れない初代新生。
「マジで訳わかんね……でも」
その場にバッタリと大の字に寝ころび、嵐が去って晴れ渡った空を見上げながらティラノがぼそっと言った。
「
world:06 あの顔この顔ヤツの顔 (完)
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※多分解説は要らないと思うけど、ベルノは神使(しんし)を紳士(しんし)と思い込み『じぇんとるめん』と表現したという事です。
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