第126話・日常風景

「何故だっペ。最強種族ドラゴンの姿に恐怖を感じないなんて、こいつらどうかしてるっぺ」

 周りの岩に溶け込む様に、完全に動けなくなった毛玉竜グレムリン。右脚に続き、左脚まで破壊し始めるスーと、いつの間にか背中によじ登り、ガシガシと頭を蹴りまくるルカ。

「や、やめるっぺよ~」

「ところがどっこい、やめてやがりませんデスよ!」

「ったりめ~っス。地獄に落ちろっス!」

 グレムリンのミスは、まさしくドラゴンの形態になった事だった。これがファンタジー世界の住人なら、ドラゴンそのものに対する伝説や神格化もあって、相手に対して畏怖を与える事も出来ただろう。

 しかしここは白亜紀、恐竜の世界だ。恐竜人ライズ達にとって、目の前のドラゴンは“本来の姿となんら変わることがない”極々日常の風景。恐怖心なんてものはまったくなく、むしろ遊び相手に過ぎなかった。

「それに、そこのちびっ子の分も殴らねぇと気が済まねぇっスよ!」

「こ、これで勝ったと思うなっぺ!」

「何をおっしゃいやがってますデスか。最後に立っていやがる方が勝ちデスぞ!」





「ふう、何かピノちゃん凄かったな~。息を飲むってこういう事かな? 呼吸すんの忘れてたわ」

 ドライアドが黙って頷いている。腕を組んで目をつむり『久々によき物を見た!』とでも言いたそうな感じだ。

 「ドライアド様、セイレーン、体調は……」

 決着がついたのを確認した直後、超特急で戻って来たハーピー。

 ウチはアンジーにもらったポーションをドライアド達にも分け与えた。二人からしてみたらアンジーのポーションなんて“敵のアイテム”とか“仇の持ち物”って認識でしかない。でも、今ウチ達がここにいるのは“ハーピーがアンジーに救援を求めた”からであって、今は決して敵ではないと理解してもらうのは難しくなかった。

「うむ、大事ないでござる」

「バッチリですわ。ママライバル亜紀さんのおかげです」

「だから変な肩書きつけんなってば……。あと、ベルノはやらんぞ!」


 なんかもう、一生言われそうだよな。異世界にさらわれない様に注意せねば。


「ベルノはウチが小さい頃に死に別れた猫なんだ。それが白亜紀ここに来て奇跡的に再会出来て……大事な家族で……。だから異世界に連れて行かせるわけには……」

「あら、連れて帰る訳有りませんわ」

 ウチの言葉を遮り否定するセイレーン。なんだろう、そのちょっと引っかかる言い回しは。それまで苦笑しながら聞いていたドライアドやハーピーまでもが、その一言で真剣な面持おももちになった。

「もう、無理ですの」

「無理って、なんで?」

「理由は何であれ、軍の幹部であるグレムリンに刃を向けた以上、魔王軍に戻ることは出来ませんわ」

「マジか。って、あれ……」

 ハーピーがドライアドの指示待ちをしていたのはそういう事だったのか。自分の行動が皆の進退を決めてしまう事への不安。ドライアドの後押しがなかったら動くことは出来なかっただろうな。


「それ、ウチがハーピーに恐竜人ライズ達の援護を頼んだ事が原因なんじゃ」

「亜紀殿とは関係ないでござる。反旗を翻したのは拙者の判断、責任の全てはそこにしかあり申さん」

「いや、そうは言うけどさ。そんなに自分にばかり責任を課すもんじゃないで?」

 と言いながらも、ドライアドはこういう部分めちゃ頑固だから、言葉を引っ込める事はないだろうな。絶対引かないのは解ってんだ。それでもさ、何というか……ウチにも責任の一端はある訳で。

「なんか、モヤモヤするぅ~」

「亜紀さん、気にしないで下さい。私があなた方に助けを求めた時点でこうなる事は判っていたのです」

「ハーピー、あんたまで……」

「それに多分ですが、ティラノさんに付いて行ったメデューサとウェアウルフも裏切り者として認識されているかもしれません」

 すべては覚悟の上での行動。というか覚悟せざるを得なかったって感じか。これもグレムリンの策なんだろう。ムカつく、モヤモヤムカつく。

「仕方ない。こうなったら、君らの面倒はウチらが見るで!」

 こうなったらも何も最初からそのつもりだったんだし、結果から見ればまあまあ予定通りって感じなんだけど。


 あとは猫耳幼女なんだけど……さて、どうしようか。家族が人質に取られているとなると、無理やり連れて行くのは愚策だよな。どこにいるかわからないから、保護しつつ家族の救出ってのは無理だし。

 まあ、グレムリンの言う事だから、本当に人質を取っているかすらも疑ったほうが良いかもしれないけど。……いずれにしても、人質の真偽が分からないと手は出せないんだよな。


 問題はこれをアンジーにどう話せばいいのか。無駄に勘がいいから、半端に話すと即バレそうだし。


「はあ、難関すぎるで……」






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