第122話・チート×チート

「亜紀殿、いったい何事でござるか」

「……ヒールを。短刀を引き抜きますのでタイミングを合わせて」

「それは拙者に任せて頂こう。刃物の扱いは慣れているでござるよ」


 ドライアドの言葉に躊躇するピノ。それもそのはずだ、初代はつしろ新生ねお恐竜人ライズだった頃に戦ってそれっきりなのだから。ドライアド達を助けに来るという目的はわかっていても、ウチが彼らと互いに感じるだけの信頼度は、アンジーの恐竜人ライズであるピノやスーが持っているはずがない。


「ピノちゃん、大丈夫。君と同じくらい部長(ドライアド)達も信頼しているから」


 この一言で全てを納得してはいないだろうけど、ピノは黙って頷くとウチの身体を押さえ、腹部が動かない様に固定し始めた。ウチの言葉を理解してすぐさまサポート役に徹するとか、このは頭の回転が速いのだろう。


 ドライアドは短刀に手を添えると、ゆっくりとおちついた口調で指示を出してきた。


「亜紀殿、呼吸を出来るだけ大きく。吸い込んだらとめて下され」


 ウチは言われるがまま深呼吸をして、数回目に息を止めた。そのタイミングでドライアドは傷口以外にダメージが広がらない様に、慎重にそれでいて素早く短刀を引き抜く。セイレーンはあらかじめヒールの魔法を詠唱しておき、間髪いれずに傷を塞いだ。チームならではの隙の無いコンビネーション、信頼関係がなせる技だった。

 この後は、身体に負担がない様にと回復スピードはゆっくり行うのが普通だ。初代新生の胸部を治療した時がそのやり方だった。傷を塞ぐまでは一気に、その後の回復はなだらかに。

 

 しかし今回は救急処置、傷を塞ぐのと回復まで一気に行う必要があった。そのせいもあって、傷のあった場所が今までになく痛い。刺された時よりも死にそうに痛い。これはアンジーによると『健全な細胞と再生された細胞の、新陳代謝のズレからくる痛み』だそうだ。だがおかげで出血もほぼなく、多少突っ張る感じは残るものの、呼吸が楽になったことには感謝しかない。


「マジで助かったよ」

「こんなところでママライバルを死なせるわけにはいきませんわ」

「……なんだよそれ。ベルノはウチのむすめやで!」

〔八白亜紀。少しは大人しくならないのですか、あなたは〕


 女神さんの“ぱふっ”としたカカト落としが、今は少しだけ背中に響く。

 お互い軽口を叩いてはいるが……ウチもドライアドもセイレーンも戦えるほどの体力は残っておらず、岩陰から見守るしか出来ないのが歯痒いなんてもんじゃない。


「ハーピー、悪いんだけど……牽制に回ってもらうことは出来そう?」


 じっとドライアドを見るハーピー。


「……恩義には恩義で返す。拙者の分まで返してきてくれ」


 その一言を聞いた瞬間、ものすごいスピードで舞い上がっていったハーピー。あの羽根から撃ち出される魔法の矢はかなり厄介な代物だった。素で魔法耐性を持っているウチでもなければ、全てかわすのは難しいだろう。味方になると本当に心強いチームだ。

 

 ハーピーが援護に向かったのはストーンドラゴンと対峙しているスーの所だった。決定打は与えられないものの、スーは一人であの巨大なストーンドラゴンと対等に戦っていた。そこにハーピーの支援が加われば、少しは戦況が良い方に傾くだろう。その間にルカとピノが合流すれば……なんだけど。


「なんスか、このすばしっこさは……」


 意外なことに、ルカは猫耳幼女にまったく触れられずに苦戦していた。これはグレムリンが『捕まったらどうなるかわかっているっペな?』と、人質に取った家族のことをチラつかせたせいだ。

 行動の先を予知し、ヒラリヒラリとかわす猫耳幼女。体捌からださばきという面では、“ティラノすら凌ぐ”ルカが完全にもてあそばれている。これでは保護するどころの話ではない。


 フィジカル極振りなルカでこれだと、この子、猫耳幼女チビアンジーを捕まえられるのってキティくらいしかいないんじゃないか?


「予知ってチートすぎんだろ……」

〔さらにはあの年齢と体格で、あれだけ動ける身体能力も脅威ですね〕

「確かにその通りだ。いくら予知しても、体が付いていかなければ意味がないんだから」


 マジでもう厄介すぎるぞ、メンタルチートにフィジカルチートって。姉妹揃ってなんなんだよ、ってさ。


「……なんかムカつく」


 もちろん、アンジーに対してだけど。






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