第116話・覚醒の力
流石に幼女と戦うのは気が引ける。当たり前の話以前にそれをやったら人として終わっているわ。なんとかこの子を“かわして”から、グレムリンへの直接攻撃に切り替えよう。
「お嬢ちゃん、やめな……てくれるとお姉ちゃん嬉しいな」
〔お姉ちゃん……?〕
「こらそこ、こんな時に疑問
我ながら気の利かない説得力もなにもない一言。子供を見るのは好きだけど、まともに接したことなんてなかった。だから扱いがわからない、なんて声をかければ良いかすらも頭を悩ませてしまう。幼女相手にドギマギするって、我ながらなさけないぞ……。
横目でチラリとハーピーの様子を確認してみると、意外と冷静に対処しているのが見えた。自身の足を掴んでいるゴーレムの手は無視して、ドライアドとセイレーンの拘束を解くことを優先していた。
「亜紀……殿」
「
グレムリンと猫耳幼女を視界に捉えたまま、耳だけを傾ける。なんとか話は出来るみたいだけど、声を出すこと自体が辛そうだ。魔法なのか薬なのかはわからないけど、身体の自由が奪われているのだろう。戦列に加わってくれればと期待してたけど、これは流石に無理そうだ。
「その、子供に注意を……う、動きを読まれる」
「——動きを読まれるだって?」
なにかの漫画であったな。視線や筋肉の動きから、次の攻撃を予測して対応するってやつ。こんな猫耳幼女が“それ”をやるのか? ……いや、疑問に思う必要はない。実際に捉えられたドライアドがそう言っているんだ、嘘も誇張もない言葉だと信用出来る。
「さっさと終わらせるっペよ~」
いつの間にかグレムリンは、暇そうに肘をついて横になっている。まったくの無警戒だ。今なら苦労なく倒せそうにも見えるんだけど……
「仕掛けるのはむしろ危険だよな」
〔そうですね。まだ何か罠があるのか、もしくはそこの幼女に絶対の信頼を置いているのか〕
「ウチは後者だと思う」
〔あら、今回は気が合いますね。私もです〕
「なら、やることは一つだな」
気が進まないとか言っている場合じゃない。さっさと倒してルカを救いださねば。
「あ……」
「……」
意を決したウチは、猫耳幼女の頭上を指さして叫んだ!
「ああ~! 空飛ぶプニキュアが!!」
……あれ、反応がない。
〔アホですかあなたは?〕
「プニキュアって、古かったか? いや、しかし
♢
アンジーと初代新生と、三人で話をしていた時だ。たまたま子供の頃の話になり、その流れで……
『ええ? セーラームンムン知らないの?』
『はあ? なんだよそれ。産まれてないっての』
『八白さん、流石に古すぎるわ。おジャ魔女ドミソでしょ?』
『ちっ、どうしようもねぇな、古い奴らは』
『ああ? もっぺん言ってみろよ、クソガキ』
……容赦なく殺気を放出するドラゲロアンジー。
『こらこらアンジー、殺気はしまえって』
『今はプニキュアだろ、お・ば・さ・ん』
『てめ、表出ろ!』
『君らホンマにもう……って、こらこら武器しまえってば……』
♢
なんてことがあったんだ。だからとりあえずプニキュア言っておけばいいかと思ったんだけど……
「すでに時代は次のステージに行ったのか。
〔それ以前の問題だと思います……。はぁ……〕
だが、猫耳幼女は反応した。たまたまなのかもしれないけど、プニキュアを知っていた様だ。ウチの指さす方をゆっくりと見上げる。
――今だ!
上を見上げれば足元は見えなくなるのは道理、ウチはそこを狙い足払いを仕掛けた。我ながら卑怯で姑息な手だ。だがな、今は勝てばよかろうなのだ!
このまま転ばせてから一気にグレムリンに攻撃を仕掛ける。……はずだった。
「え……なんで」
猫耳幼女は空を見上げたまま、縄跳びでも飛ぶように軽くジャンプしてかわしていた。相手を見ないで動きを読めるものなのか? 姿勢を低くして、ウチ自身が猫耳幼女の視界の外に出てからの足払いだったのに。
ウチは空振りした蹴り足を、そのまま折り返してもう一度足払いを仕掛けた。今度も完全に視界に入っていないところからの攻撃だ。
「フン、アホじゃな。無駄だっペよ」
グレムリンの悪態じみた呟きが聞こえてくる。悔しいが実際はその通りで、猫耳幼女は二度目の足払いも難なくかわしていた。
「この子、いったいなにをやったんだ?」
〔完全に読まれていましたね〕
「いや、これは“読まれた”とかのレベルじゃないぞ。もっとこう、なんというか……」
言葉が出てこないウチを見てのことなのだろうか。グレムリンは、毛むくじゃらの下にあるドヤ顔でウチらを見渡しながら、自慢げに口を開いた。
「それが、覚醒の力だっペな」
覚醒って、解放とは違うのか? ……また訳の分からん話が出て来やがったな。
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