「ルカちゃん！！」

　ルカはゴーレム指の巨大な手に握り込まれてしまった。

「だ、大丈夫っス……」

　ただラッキーなことに、指であるゴーレムが3メートルというその大きさ故、手の中にはある程度動けるだけの空間がある様だ。ガシガシと中から岩壁を殴る音が聞こえてきている。しかしこれでは岩の中に閉じ込められている様なもので、脱出にはかなりの時間がかかるだろう。

　でも、潰されてなくて良かった……マジで心臓に悪いわ。

「おま、卑怯だろそれ！」

「こんなにわかりやすい囮（トラップ）に引っ掛かるなんて、相当単純だっぺな」

　う……なんかムカつくな、こいつ。確かに大将であるグレムリンの後ろにいる時点で怪しかった。戦わせるのなら前に出すはずだから。

「……あれ、まてよ。なんでだ？」

「どうしたのですか？」

「あのトラップって、ウチ達がここに来る前からあの位置に仕掛けてられていたよね」

　状況確認した時点でゴーレムはあそこに立っていた。魔王軍からしたら、ウチ達が何人で、更にはどんなメンバーで来るかなんてわかるはずがない。

「何故あんな正確な位置にトラップを設置出来たんだ？」

〔情報が洩れている可能性はどうでしょう？〕　

「……いや、それはないと思うで」

　仮に身内に裏切者がいたとして……例えばハーピーが“ドライアドを解放する代わりにグレムリンの言いなりになっている”と仮定したとして。だとしても“陸路側から奇襲をかける”なんてのは、今さっき立てた作戦だ。それよりも前にトラップの位置を確定させるなんて、ウチ以外全員スパイだったとしても無理な話だ。

「おい、毛玉（グレムリン）」

「なんだっぺ？」

「ルカちゃんがそこに攻撃を仕掛けるのがわかっていたな？」

「さあな。偶然じゃないっペか？　しらんけど」

　グレムリンは両手を頭の後ろに回し、わざとらしくそっぽをむいてみせた。……ウチの思考が完全に読まれているのか？

「そろそろ、後ろの河口からも一人来るっペな」

　まさか、スーまで……それともこれもブラフ？　いやいや、ルカの件はブラフに見せかけて本当に知っていた。これはまずい。こちらの動きが読まれている理由がわからないと負けるかもしれないぞ。

「ああ、もう……。ハーピー、部長（（ドライアド））救助優先で動いて。ウチは毛玉（（グレムリン））を抑える」

「わかりました」

　ずっとGOサインを待っていたハーピーは、軽く上昇すると一気にドライアドが縛られ座っている場所に急降下していく。そしてウチは半分ヤケになりながらもグレムリンに向かって真っすぐに走った。

　もしなにか罠があったとしても、ウチとハーピーが同時に動けば対応も遅れるだろう。それに加えて裏からスーが来ている。この三カ所すべてに対応出来るのかどうか、それによって突破口が見えるかもしれない。

「お前様達の行動は全部知（・）っ（・）て（・）いるっペ」

　理由はまだ分からない。それでも『知っている』というグレムリンの一言は……悔しいが本当だった。

　ドライアドとセイレーンの間に降り立ったハーピーは、直後地面から出て来た手に足を掴まれてしまう。こちらは逆に普通のゴーレムよりも小さく、人間サイズくらいの手だ。

　ハーピーが降り立った位置にピンポイントで小さいトラップ。やはり読まれている。もしあそこにウチやルカが行っていたら、あの程度の手はあっさり振り切れていただろうから。

　逆に、スーがいると思われる河口付近は静かなまま動きがない。すでに戦闘状態に入っているのかもしれないけど、水中の状況が全くわからないのは物凄い不安だ。

　このまま作戦通りに動いていいのだろうか？　こんな状況は初めてだ。わからない、見えない、不安しかない。なにか根本的に間違って……いや、見落としている？

　そして、ウチの前には黒ローブの猫耳幼女が立ちはだかった。フードを被っているから口元しか見えないけど、ふっくらプニプニした頬（ほほ）は、まだまだ小さい子供のものに間違いはなかった。

「おい毛玉（（グレムリン））、お前こんな幼女を戦わせて恥ずかしくないのかよ！」

「んん？　お前様のところの猫幼女となにか違うっペか？」

　……うう、なんも言い返せねぇ。なんかもう、グレムリンってマジ嫌いだ。

　ウチは、この猫耳幼女についても考え違いをしていたのかもしれない。ケルピーがドライアドと同じくらいの強さだとして、魔王軍からしたらドライアドを“間違いなく封じ込めるだけの戦力”がなければうかつに手を出せないだろう。手のゴーレムがいかに巨大でパワーがあっても、あれは機動性のない“待ち前提”のトラップだ。そしてグレムリン自体に戦闘能力はほとんどない。

　となると……この黒ローブの猫耳幼女が、ドライアドを抑え込むだけの能力があるということになる。

「マジか……そんなこと出来るの、アンジーくらいだぞ」

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