第91話・落第

「ヒョ? そうか、猫娘オマエ……」

「なんだよ」

「さっキの攻撃で頭打ってイたのかや。いやいや、すまなかったな、“パープリン(注1)”にしてしまってな」


 挑発のつもりなのだろう、バルログのわざとらしく憐れむ目が初代新生を見た。だが、その手の挑発なら彼女も負けてはいない。


「なんだ、弱い頭にベルノの猫パンチ喰らって脳味噌が液状化したのか?」

「あら、その後わたくしも一撃入れておりましてよ!」


 初代新生の考えを読み取っての一言なのか、トリスが絶妙な合いの手を入れる。


「それじゃあもう脳味噌残ってねえだろ」

「衝撃で液状化して蒸発したのかもしれませんわね」

「中身のない頭なんてゼロイミ(注2)じゃねぇか。コンビニ弁当のレタスよりも役に立たねぇよ!」


 バルログに“コンビニ弁当のレタス”が通じたかはわからない。それでも馬鹿にされたという認識は持ったようだ。


「単純な掛け算も出来ナい癖に、口先だケは達者だな」

「掛け算だと……?」

「ヒョ、掛け算も知らナいのかや」


 その一言で、初代新生は自分の考えに確信を持ったようだ。口元をニヤリとさせながら剣鉈の切っ先でバルログを指し言い放つ。


「断言してもいいぜ。お前、分身して戦うの始めてだろ」

「分身ではナいと言っタのを聞いてなイのかや? こレだから計算も出来ナい猫娘は……」


 初代新生は視線をこの場の“仲間”に向ける。フィジカル最強のティラノサウルス、攻守に長けたミラガイア、スピードで翻弄ほんろうするケツァルコアトルス、癒しと意外性の家猫、そして魔法を駆使する冷静なラミア。


「頼む。オレに力を貸してくれ」


 そして彼女は、躊躇ためらいもなく耳を疑うようなことを言った。


「……」

「駄目……か?」

「いや、いいんだけどよ、なんつーかその……」

「ティラノ、ハッキリするニャ!」


 またもやベルノのもふもふ肉球が“ぽふんっ!”とティラノの尻を叩いた。


「なんか、もう、めちゃくちゃ意外だっただけだぜ……」

「それは……禿同。デス」


 今までの言動を知っている者は、特に一度初代新生の恐竜人ライズになったことのあるティラノからしたら、何十回聞いても信じられないひと言だった。


「オレは、戦術とかそういうのは全くわからねぇけど、バルログあいつは今ここで倒さなきゃならないってことだけはわかるぜ」

「そうですか。ならば……」


 トリスは自身の武器、ランスを取り出して脇に構えた。


「サクサクとやりましょう。時間をかけるとミクロラプトルその子も危険ですわ。まだ治療は終わっていませんもの」


 トリスの得物であるランスは、真っ白な手元から真っ青な先端へとグラデーションがかかっていた。所々に金色の文字が刻みこまれ、微光が全体に渦巻いている。——その姿は『神々しい』以外に表現のしようがなかった。

 そして、正面からでも頭上からでも一気にランスチャージをかけることが出来るトリス戦い方は、乱戦が予想されるこの場においては頼もしいスキルなのは間違いがない。


「ヒョ、そろそろ殺していいかや?」

「なんだ、まだ勝つ気でいるのか?」

「ヒョヒョ。今迄の四倍の力を開放シてそれが五人にナったノダ。どう計算しても……」

「いや……」


 バルログの言葉を遮り、初代新生が言い放つ。


「お前ら赤点だわ。マジ落第」






――――――――――――――――――――――――――――

(注1)パープリン(ぱあぷりん):パーとプリンを合わせた、昭和時代の煽り文句。多分語感でくっついただけだと思われる。パープーという短縮表現もアリ。

(注2)ゼロイミ:ギャル語。ゼロの意=意味がない。


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