第37話・死神
チーム猫耳恐竜の拠点から東に全力疾走で十数分。この辺りはウチが転生した場所に似て、枯れ木と少しばかりの雑草が生えた大地が続いていた。
ウチは、キティとプチを連れて黒ローブの魔王軍を追って来たんだけど……すでにそこでは、チーム新生と黒ローブとで戦闘になっていたんだ。
「ゴーレムが三体。あと、その後ろに黒いローブが一人」
キティが言っていた『三人の巨人』って、ゴーレムの事だったか。
「普通知らないよね。三体ではなくて三人って数えてしまうのも仕方ないか」
「ゴーレムってなんだすか?(キリッ)」
「魔法で作られた、動く人形って感じかな。ちなみにアレは生き物じゃないから、もし戦う事になったら容赦せずにガンガン壊していいよ!」
少し小高くなっている丘の岩陰に隠れてこっそりと状況確認だ。50メートルほど距離があるから、あまりハッキリと見ることが出来ないけど……ウチでこの状態だと、プチにはほとんど見えていないだろうな。
――って、初代新生のヤツなにやってんだよ、もっとしっかり指示だせよ、コラ! って、そんな力押しにティラノ使うな、アホ! さっさと負けて気絶でもしてしまえ!
――ああ! ティラノ危ない! ……ふ~、良かった。右来てるよ、右! そうそう、しっかり~!
――ちっ、初代新生、なんで攻撃よけるんだよ。当たれよ! 当たって泣け!
「ティラちゃん負けるな~! 初代新生は負けろ~!」
〔八白亜紀、いつにも増して支離滅裂ですね〕
「うっさいわい。己の欲望に正直なだけじゃい!!」
――おっと、ティラノのレックス・ブレードが炸裂! ゴーレム二体撃破だ。ティラノかっこい~! ええぞ、流石だ~!! おい、初代新生コケろ! コケて泣け!
「ああ、もう、だから避けるなって。当たって泣け!」
「いや~、八白さんさっきから楽しそうだね~」
「うおぅ……⁉」
急にアンジー。音もなく後に立っているなんて焦るじゃないか。
「え、いつから……見てたの?」
「最初からいたよ。凄い興奮してたから声かけにくくてさ」
……失礼いたしました。
「はいこれ」
「え、これって……双眼鏡?」
「人の戦い方はちゃんと観ておくといいよ。自分が闘う時の参考になる」
なるほど。アンジーって結構戦闘慣れしている感じだな。
「プチちゃんの分もあるよ」
「あ、ありがとうございます。……す、凄いですね、これ……遠くが見える。なんか、掴めそうです」
双眼鏡を覗きながら、右手でなにかを掴もうともそもそ動いているプチ。
「はい、キティちゃんの分」
ニコリと笑いかけながら手渡すアンジー。
「あ、ありがとうだす(キリッ)」
「いえいえ、さっきは面白いスキル見せてもらったからさ」
……やはりバレてたのか。
「多分、カメレオンみたいに風景に溶け込む感じのスキルだから、使うときは呼吸音と足音に気をつけた方がいいね」
「あ、はい。……ありがとうだす(キリッ)」
……な、なんて、的確なアドバイスなんだ。キティが畏れ入っているじゃないか。なんか、アンジーってマジでなんなん?
「ところで、双眼鏡なんてどうしたの?」
「ああ、ジャケットフードの内側が
「なんて便利なものを。最初の願いが二個だったら二つ目に欲しいわ!」
「一個だったら?」
「チョコとラーメンのカバン!」
「そこは
「もちろん!」
って、あれ……なんか引っ掛かるな。この違和感の正体はなんだろう?
「八白さんどうしたの?」
「……いや、ウチにもわからなくて」
「なにそれ……っと、そろそろボス戦だよ」
おっと、のんびり会話してる場合じゃなかった。視線を戻すと、ティラノの足元には三体分のゴーレムの破片が散らばっていた。
「ティラちゃん、流石!」
「でも、ちょっと息が上がっている感じだね。少しセーブしながら戦う方法を教えた方が良さそうだよ。他の
「でも、敵はあと一人だよ?」
「その一人が問題なんだ。あいつは、魔王軍斬り込み隊長の死神。あのゴーレムは多分、相手の力量を見る為に作ったのだろうね」
ますます何者よ、アンジーって。なんで魔王軍の内情に詳しいんだろ?『流石にウチでも怪しいと思うわ~』なんて考えていたら、きっと顔に出ていたのだろう。アンジーはウチの視線に気が付くと、ピースサインを出しながら驚きのひと言を発した。
「前に魔王軍と闘ったことがあるんだ。あの死神ともタイマンしたよ!」
ああ、なるほど~
「——って、それか!」
「え、どれ?」
「それだよ。違和感だよ、違和感の正体だよ。
日本人って言ってたから、何も考えずに日本から来てると思っていたけど、そこから違っていたのか。
「
「ないない。日本人って言ってたから……」
「うん、日本人だよ。
……まさかの展開。日本人で、異世界生活してからここに来ているなんて! ったく、何をサラっと言ってやがるのですがこの陽キャは。
「んじゃ、異世界で戦った相手を追って来たってことなん?」
「それは内緒で」
「マジか~。なんでよ?」
「謎多き女の方がカッコいいじゃん?」
なんて事をドヤ顏で言っていますが。ご丁寧に人差し指と親指を立てた右手を顎に当てて、視線だけをウチに向けて来た。くう、美人は何やってもサマになるなぁ~。
「……それだけ?」
「それだけ!」
マジか~。ほんと、アンジーって……なんなん?
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