第38話・なんか、ふわぁ~って!

 死神が右手を前に差し出すと、ティラノは膝を付き動けなくなった。木刀を杖代わりにして必死で耐えている。……なんだろう? 他の恐竜人ライズ達も同じ様に膝や手を付いてその場から動けなくなっているけど。


「ティラちゃんどうしたんだろ。なんか押さえつけられているみたいな感じ?」

「多分あれは、重力魔法だと思う」

「ふむふむ、流石は異世界帰りアンジー。でもそれなら初代新生が立っているのは何故?」


 恐竜人ライズ達が皆動けなくなっている中で、アイツだけが棒立ちになっていた。怒鳴り散らすだけで、完全に孤立状態だ。


「転生者や転移者には……あ、もちろん八白さんや私もだけど、魔法耐性があるんだ。耐えられるのはある程度の魔法までだけどね」


 そうなのか……ウチにもそんな特性があったのか。これは良い情報だ、聞いといて良かった。


「女神さん、マジでこういう情報は先に教えておいてくれ」

〔でも、秘密にしておいた方が謎多き女神でカッコイイじゃん?〕

「存在そのものが謎でしかないだろ、いらん要素を増やすなって! 『じゃん?』じゃないっての。誰の影響だよ……」


 アンジーを指差す女神さん。まあ、わかってはいるけど。そして『ふ~ふ~』と吹けない口笛を吹く真似をしながら視線をそらす異世界帰りの謎女。

 

「このまま初代新生が負ければティラちゃんを取り返せるかな?」


 我ながら汚い作戦じゃのう。だがしかし、初代新生に対して手段は選ばん! 取り返せれば良かろうなのだぁ。


「普通の相手ならそれも一つの手なんだけどさ。でも今回は相手が悪いよ」

「というと?」

「死神ってね、倒した相手を操って軍団を作るんだ」


 ――なんですと⁉


「え? じゃ、じゃあティラちゃんや他の娘も……」

「うん、死神の軍団になったら厄介だよ。生きながら死んでいくから。そしたら奪う事も取り返すことも出来なくなるし」


 マジか。みんなを助けなきゃ。でも初代新生は助けたくないし。……いやいや、そんな場合ではない。でも初代は……


「ってことでさ。ちょいと助けに行ってくるね!」

「はい?」


 アンジーは『コンビニにプリン買いに行ってくるよ!』って位軽い感じで飛び出すと、死神迄の50メートルほどの距離を、4~5秒で駆け抜けていった。


「マジか……世界記録レベルじゃん」

「オラをまいた時はあんなものではなかっただす(キリッ)」


 死神と初代新生との間に割り込んだアンジーは、いつの間にか剣を持っていた。


「あれもフードから取り出したんだよな……?」


 RPGとかによくある感じの、なんかこう、ぐちゃぐちゃ~っとした模様の入ってる柄の剣。太陽光でハッキリとわからないけど、剣身自体が青白く光を発しているように見えなくもない。

 死神は突然現れた乱入者の顔をまじまじと見ると、一瞬“ビクッ”と反応し警戒の色を強めた。明らかに初代新生と戦っていたときとは反応が違う。上手くは言えないけど、ウチには、なにか恐怖を感じているように見えた。

 アンジーが剣を構えると、それを見た死神は自身も武器を取り出す。身長よりも長い、2メートルはありそうな大鎌だ。


「死神って言ったら大鎌だよね~」

〔敵ながら芸がありませんこと!〕

「……にしても、どこから出したんだよ、あれ」

「な、なんか手から出てきましたね。ふわぁ~って。ふわぁ~って!」


 うん、確かに“ふわぁ~”だった。プチの表現って何気に的確なんだよね、抽象的だけど。抽象的確。うん、ジュラ流行語大賞にノミネートしておこう。


「ところで、あれも魔法の一種なのかな?」

〔魔法か、それに近い現象の様ですね〕 

「ってことは、ウチも出せたりするのかも?」


 じっと手を見る……

 手を見る……

 手を……


「……出ませんでした」

〔当たり前です〕

「マスターさん、ティラノさん達が……」

「うわ、やる事きたねぇな……」


 アンジーが助けに入ったのを見た初代新生は、協力するのでも声をかけるのでもなく、その場から逃げ出した。もちろん恐竜人ライズ達も追従する。当然ティラノもだ。だが今は仕方がない、むしろそうしてくれて良かったと思う。間違っても死神軍団にならせる訳にはいかないから。 


「プチちゃん、やってもらいことがあるんだけど」

「なにをするのですか? マスターさん」


「ウチはちょいとプリンを買いに……じゃなくて、アンジーを助けにいってくるわ!」






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