第36話・オブラート・ラッピング

「亜紀ぴ、この後私達はどうするの?」


 アンジーが去っていくのを見ながらラミアが聞いてきた。ずっと黙っていたのは、魔王軍としての自分の立場を気にしてなのだろうか?


「そうね~。もうちょっと仲間増やしたいところだけど。ティラちゃん取り返すにも戦力は必要だからね!」

「ティ、ティラノさん、大丈夫でしょうか?」

「大丈夫っス。ティラさんは強え~っスから!」


 ウチが転生したときからティラノと一緒だったプチ。そして旧知のルカ。この二人はティラノのことが特別気にかかる様だ。


「ウチも彼女なら大丈夫だと思う」


 大抵のことは跳ね返す強さを持つ、最恐ティラノサウルスなんだから。でも彼女達が不安になっちゃうのは仕方ない。ウチだって、自分の力でちゃんと取り返せるかどうか不安でたまらないのだから。


 ピンチを救ってくれたミノタウロス達は、少し前にここから離れていった。ラミアが連れて来た時は『仲間になってくれるかも?』と、ちょっとだけ期待していたけど、彼等は彼等なりに魔王軍の一員として筋を通すらしい。ミノタウロス曰く『同志ではあるがお互いの立場は敵。故に、次に会った時は全力で闘い申す!』だ、そうだ。

 ラミアはここが気に入ったみたいで残ってくれている。女神さんは『魔王軍の情報を聞き出せ』ってうるさいけど……それは人の道じゃないと、ウチは思う。


〔まったく、厄介な性格ですね〕

「諦めてください、それがウチです!」

 


「マスター、戻っただす(キリッ)」


 ふわっと華やかな風がの中から、音もなくスッと姿を現すキティ。相変わらず忍者みたいだ。


「あ、キティちゃんお帰り~。どうだった?」


 どうだった? とはアンジーのこと。彼女が去る時、コッソリとキティに後をつけてもらったんだ。人の目のない所での行動こそ、その人の本性が現れるものだから。


「……まかれてしまっただす(キリッ)」


 よほど屈辱だったのだろう、キティは目を逸らすと頬をぷーっと膨らませて、小石か何かを蹴る仕草をした。


「あ……あざとい。あざと可愛いぞ!」


 ……って、あれ。俊足キティが『まかれた』って言ったのか? 


「それに、オラの存在にも気が付いていたみたいだす(キリッ)」


 のんびりと歩いていたアンジーは姿を消しているキティに笑顔を向けると、次の瞬間消える様に走り去ったらしい。


潜伏ハイドしている時はいつもみたいに走れないだすから……」

「それでもキティちゃんを置き去りにするって、どんだけの身体能力なんだよ」

〔ますます怪しいですわね〕

恐竜人ライズを上回る身体能力の持ち主なら、独りソロで戦えるんじゃ?」

〔そうですね。八白亜紀、あなたや初代新生とは段違いのハイスペック猫人の様です〕

「それ、言い方ぁ!」


 ったく、もうちょっとオブラートに包めっての。

 まあ、アンジーについては女神さんの調査待ちって感じだな。ウチ達に何か危害を加えるつもりなら、挨拶なんてしないで襲って来たと思うし。


「え~と、それで、まかれてから戻るときになんだすが……」

「え……まだなにかあるの?」

「真っ黒のローブ姿の変な人が三人の巨人と一緒に歩いていただす(キリッ)」

〔黒ローブですか。それはまず魔王軍でしょうね〕


 女神さん曰く、真っ黒のローブは魔族のトレードマークみたいなものらしい。イメージカラーなのは判るけど、ここまであからさまに黒いと『少しは誤魔化せよ!』と思ってしまう。


〔それよりも“三人の巨人”というのが気になります。魔王軍に巨人と呼べる魔族は一人しかいないハズなので〕

「なるほど……これは追いかけて確認した方が良さそうだな」


 ……もちろん、コッソリと。






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