world:03 殴り殴られ振り振られ

第35話・第三の……

「やあ、君が八白さんだね。始めまして!」


 ――突然のことだった。

 

 チーム猫耳恐竜が拠点にしている、小川沿いの草原。みんなでティラノを取り返す作戦を練っている所に、甘酸っぱく爽やかな風を振りまきながら一人の女性がウチ達の前に姿を現した。


「は? どちら……さまで?」


 って、なになになに、外国人⁉ いや、それよりなんでウチの名前知っとんの。この人も転生か転移してきたってことだよな、ウチと同じ猫耳しっぽやし。……つーかまたが増えたのか?


 身構える恐竜人ライズ達。プチは飛び上がって距離を取り、ルカは腰を落として構え、キティは姿を消した。しかし、ガイアは平然としているし、ベルノに至っては新たな猫耳しっぽにワクワクしている。

 

「あ~、そんなに警戒しないでよ。私はアンジュラ・アキ、君と同じ名前だね。ヨロシク!!」

「って……おい女神、どういうこっちゃ?」

〔どうやらまた誰かが送り込んだらしいですね〕


 やはりなにも知らないってことか。でも向こうはこちらの情報を知っている様だし、これは付いている神さんの差なのか? 


「えっと……アンジュラさん? は、どこの生まれなんです?」

「一応日本人だよ~。その質問はこの青い目でしょ。ハーフなんだ。あと、呼び方はアンジーでいいよ」


 なるほど。しかし何というかこの……精悍な顔立ちだしコミュ力高そうだしまつ毛長いし色白だしスレンダーだし人当たり良いし。


「絶対ウチとは住む世界が違うわ」

「え~、そんな事ないよ~」


 美男とか美女とか、本人も認識しているはずなのに『そんな事ないよ』とか『普通だよ』とか答えるのって、謙遜的な意味があるのは解るんだ。


 解るんだけどさ……


「なんかムカつくんだよな~。マジで」 

「八白さんひっど!」


 と言いながらフレンドリーにケラケラ笑う、アンジュラと名乗る怪しい猫耳。 


「そこの妖精さんが八白さんの神ちゃんなのかな?」

〔我ら神に対して“ちゃん付け”する様な不敬で怪しい人には答えません〕


 おい……バレバレじゃないか。女神さんをジト目で見るが、本人は全く気が付いていないらしい。腕を組んでプンスカ状態だ。


「とりあえずね、こっちの神ちゃんから情報は貰ってるんだ。初代はつしろ新生ねおって言ったっけ? 八白さんの恐竜人ライズを奪ったのは」

「ああ、そうだけど……」

「取り返す手伝いをするよ。魔王倒すついでにさ」

「それはありがたいけど、あなたに何のメリットがあるの?」


 この状況で『あなたの為に手伝いますよ』なんてのは流石に信じられない。何か見返りを求めてくるかもしれないし、そもそも騙して何かしようとしているのかも。……それにしても、魔王倒す“ついで”とか凄い自信。そうゆうのって、どっから出てくんだよ。


「見ての通り、私にはまだ一人も恐竜人ライズがいないからね。初代新生そいつからまとめて貰おうと思って。もちろん八白さんの恐竜人ライズまで奪う気はないよ」


 言っていることは理にかなっている。確かに今から集めるよりは手っ取り早い。それに乱暴者の初代新生よりも、この人にまとめてもらった方があの達の為にも良い気がする。だけどやはり危惧するのはティラノの事。


「……ティラちゃんは間違いなくウチに?」

「あ~、信用ないんだ~。まあ、会ったばかりだから仕方ないけど」

「あ、ごめん、そういう意味では……」

「気にしないで。大事な仲間なんでしょ? 慎重になって当然だよ」


 ……ああ、仲間って言った。恐竜人ライズを仲間と呼んだ。


 まだよくわからない相手だけど、ウチの直感が“とりあえずは信用しても良さそうだ”と感じた。なによりこの人とは気が合いそうな気がする。


「わかった。よろしく、アンジュ……アンジー!」

「OK! よろしくね、八白さん」


 そう言うと、スッと手を出し握手を求めてくるアンジー。こういう事をさりげなく出来る人って凄いよな。


 凄いんだけどさ……


「でもなんかムカつく~。マ・ジ・で」

「ひっど!」


 初代新生のこともあって、まともに話が通じる元人間の存在が正直嬉しかったのだと思う。思わず両手で握り返してさし上げました。


「じゃ、またくるよ!」

「え? 一緒にやるんじゃないの?」

「そうなんだけど、まだ私の存在は隠しておいた方がイイでしょ。だから別行動ね。今日は顔合わせってことで!」


 そう言うとアンジーは、頭の上で右手を振りながら林の中に消えていった。彼女の言うことはもっともな話で、初代新生に警戒されたら上手く行くものも行かなくなってしまう。


 ……第三の猫人か。いい人だけど、腹の中はどうなのだろう?



「女神さんや」

〔はあ……なんですか、ご隠居〕

「今の人、アンジュラさんのことも調べておいてくれる?」

〔もちろんです。しかし、なにが気にかかるのですか?〕

「握手をしたときに気が付いたんだけどさ。てのひらがゴツゴツと堅かったんだ」


 多分隠す気は全然ないのだろうけど、その華奢きゃしゃで可憐な見た目とのギャップが凄い。ドレスを着たハリウッドセレブの手が鍛冶職人だったってくらいの印象だ。ウチはその違和感の正体が気になって仕方がなかった。


「高校時代、野球部の掌がつぶれたマメだらけでそんな感じだったよ。つまり……」

〔つまり?〕


「彼女は野球部だったのか!」


 女神さんのカカト落としが、ウチの脳天に“ぱふっ”と落ちてきました。






――――――――――――――――――――――――――――

キャライメージ画

アンジュラ・アキ→https://kakuyomu.jp/users/BulletCats/news/16817330651144736296


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