第70話・1+1=?

「しかし、あのワニの恐竜さん強いな~」

 川から上がってきたワニの恐竜は、手当たり次第にスケルトンを叩き潰している。なんか『保護しよう』とか考えるだけ無駄な感じがしない事もないが、それでも流石に魔法なんて使われたらひとたまりもないだろう……。


〔八白亜紀、感心している場合ではないのでは?〕

「あ、そうだった……。プチちゃんは空から奇襲を仕掛けてもらいたいんだ。あそこにいる魔王軍の指揮官と、ワニの恐竜さんとの間に手榴弾を二~三個落としてきて!」

「だ、大丈夫でしょうか……?」

「そうそう、間違ってもワニの恐竜さんには当てないでね!」

「緊張しますぅ~。ワニさん当たったらごめんなさいです」

 これで驚いて逃げてくれれば成功だ。ついでに魔王軍への牽制も出来ればラッキーって感じね。問題があるとすればプチの視力の弱さだけど、こればかりは仕方がない。双眼鏡片手に飛びながら手榴弾撒くのは流石に無理がある。……でもまあ、なんとかなるっしょ。


「タルボちゃんはスケルトンの先頭をやり過ごして、一団の真ん中あたりになったら横から思いっきりディヴァステートをぶちかましてね!」

「はいですの!」

 ルカに向かってきているのが二十体弱ってとこか。タルボが撃ち込めば五~六体は潰せるな。

「ルカちゃん、タルボちゃんが撃ったら一気に潰しちゃって」

「了解っス!」

 歩みはゆっくりだが、ジリジリと間を詰めてくるスケルトン軍。ウチらが隠れている大岩の前を一体、また一体と通り過ぎる。

「八……九……今!」


「行きますの! レックス・ディヴァステート!!」


 大岩から躍り出ると同時に、スケルトンの一団の横っ腹に全力の一撃を叩きこむ。通常は頭上から全力で叩き下ろす技だが、今回は横薙ぎに技を放った。ゴジラ松丼も真っ青のウルトラスイングだ!

 そして、そこから繰り出された扇範囲状の衝撃波は……ウチの予想を遥かに超え、約半数のスケルトンを破壊する威力だった。特に直撃を受けたスケルトンは粉々になっていた。

「マジか……技の威力がめちゃくちゃ威力上がってんじゃ?」

〔八白亜紀、それはあなたと恐竜人ライズの相乗効果、つまり“絆”です〕

「ウチが成長した分と、みんなが成長した分が乗算されたって事か」


 転生前の時代に『1+1は2じゃないぞ』ってレスラーの名言があったな。『オレたちは1+1で200だ。10倍だぞ10倍』って凄い力技な続きがあるけど。

 でも今のライズちゃん達は、10倍なんてもんじゃないくらいの強さを引き出せている感じだ。 

「1×1は2000なんやで!」

〔相変わらずですね……〕



 プチはすでに目標ポイント上空に到達している。空から攻撃を仕掛ける時に一番怖いのは、睡眠魔法マインド・レストで眠らされてしまう事だ。術にかかったら最後、地面に激突して大怪我を負うのは必至。

「ま、対策していないウチやないでぇ~!」

 魔王軍の使う魔法の特性は、ラミアから事細かに聞いておいた。ゲームやアニメみたいに“魔法を使ったら無条件に相手に当たる”という事は無く、どんな魔法であれ“命中させなければ効果が無い”らしい。射程距離は人それぞれの技量やスキル次第という事なのでそこは計算が出来ない。

 よって、一番の対策は『とにかく動きまわる』事に尽きる。もしヤバいと思ったらウチが全力で下敷きになる覚悟はしている。……まあ、そんな事態にならない様に祈っておこう。


 ポケットからピンクの手榴弾を取り出し、ピンを抜いて落とすだけの簡単なお仕事です。……言うほど簡単じゃないけど。

 プチは三つ四つと続けざまに手榴弾を落としていく。丁度ワニの恐竜と指揮官の中間に上手く落とせたようだ。

 一つ目が地面に落ち、周りのスケルトン数体を巻き込んで爆発する。破片や小石がかなりの勢いで飛び散るが、十メートル以上もあって皮膚がゴツゴツしている恐竜ならそれほど被害はないだろう……。多分。

 この爆撃が終わったらウチの出番だ。ルカとタルボもスケルトン殲滅まで三分とかからないだろうし。そこから一気に戦局を有利に持って行って制圧からの説得。これがベストだ。


 以前アンジーから『力を見せて相手の戦意を無くさせるのは対話と違う』って言われたけど……それは認める事にした。認めた上で行使する。ウチにはそのやり方が、一番誰も傷つかないと思うから。

 恐竜人ライズ達や、まだ見ぬ恐竜達、ついでにこの世界を守るのに一番良いと判断したんだ。勝っても絶対におごらない、対等の話をする。


 それが“皆を護る戦い”、ウチの戦いなんだ。


 ……しっかしなぁ。また“想定”から斜め上を行く展開に突入してしまったんだ。



「マジかよ。今回こんなのばかりだな」






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