第2話・爆誕ニャン!

 肌に風を感じ、足が地についている感覚があった。恐る恐る、目を開ける。


「ここが……異世界?」


 想像していた異世界転生とは全く違う。中世的な街並みも、風がそよぐ草原もそこにはなかった。

 スカッと抜けるような青空に揺蕩たゆたう白い雲。そして、遥か向こうに煙を吹いている火山が見えるだけ。

 爽やかな天気とは対照的に、枯れた樹木と岩山ばかりの何もない大地。所々水たまりがあるのは雨でも降った後なのかもしれない。気候的には春か秋かといった感じで、暑くも寒くもなく過ごしやすい気温だ。


「そうだ……ウチ、恐竜に」

 ……なってなかった。人間サイズで一安心、手も足もそのままだ。いつ着替えたのか判らないけど、フード付きの白いパーカーと黒の膝丈スウェットパンツになっている。持ち物は報酬でもらったショルダーバック一つだけ。パソコンもスマホも無いとか、ちょっと落ち着かないな。 

 流石にここまで何も無いと何をすればよいのかまったく判らない。どうしようかと考えていたら、ウチの腹から盛大な鳴き声が聞こえたんだ。


「あ、朝飯食ってなかったな」


 まずはガッツリと腹ごしらえだ。『どんな時でも食える奴が生き残る!』って、名言もあるしね。

 地面が乾いている場所を探し、大きめの岩を背もたれにして座る。青空の下での食事ってキャンプ飯みたいで良き。

 ショルダーバッグを開くと、ヒョコっとどんぶりが飛び出した。熱々のラーメンだ。よく判らないけど何か凄い構造の様な気がするぞ。

 ウチの主食のラーメンと、ひと箱十二個入りの一口サイズミルクチョコ。これが無限に出てくるとかもう神アイテムじゃん!  願いが百個だったらこの鞄を百個貰う選択しかないわ。


 ……っておい。


「これ豚骨醤油じゃないか! 鶏塩って言ったのにさ、ったくアホかあの女神。どうやったら間違うんだよ……」

 と、文句を言いながらも『ずずず』っとスープを一口。

「あ……」

 こってり濃厚な豚骨のダシに、す~っと鼻に抜ける醤油の風味。

「旨っ」

 透明感のある中太麺がもちもちシコシコしていて……滅茶苦茶いけるな、豚骨醤油って。

「今まで“もたれそう”ってイメージだけで敬遠していたからな。なんか人生損した気分だよ……」

 コクとキレのスープが麺に絡んで何とも素敵なハーモニーを奏で、あっという間に完食してしまっていた。


「……あれ? なにこれ?」

 人心地ついて余裕が出来たからだろうか? ウチはその時初めて、身体の変化に気が付いた。


 ――しっぽ????


 まさか……これは猫耳しっぽになってるじゃないか。

 動く……こいつ動くぞ! 右に左にしっぽが動く、伏せたり立てたり耳がぴょこぴょこ。そしてもふもふ。そして特筆すべきは見た目が若くなっている事。十五~六歳くらいだろうか……さすが転生!



「猫耳美少女爆誕ニャン!! ……とか言ったりして!!!」



 ……水たまりに映っている自分と目が合ってしまった。そこには片足を上げ、両手で猫ポーズをキメている中身アラサーの猫人がいたんだ。

 あ~、やばいくらい顔が熱い。頬にあてた両手のひらに熱が伝わる。きっと顔真っ赤だ。なんかもう、恥ずかしいを遥かに通り越して『生きててごめんなさい』とか言い出しそうだよ。

「……誰もいなくて良かった」

 ま、まあ、そうは言っても猫耳美少女。これは大当たりだ。何気に若返っているのが素晴らしいぞ。


 ところで……恐竜ってどこにいるんだろ? それに、街とかはどうなってんだ?

「ったく、変な異世界やな」

〔違います、ここは異世界ではありません〕

「って、うぉい女神。急に出てくんな、焦るだろ」

 相変わらず声だけの存在だけど、驚くなという方が無理だ。

〔ここは太古の地球、ジュラシックワールドです〕

 太古の地球? それってタイムスリップって言わないか? って、そんな事より…… 

「ウチは異世界転生したんじゃないの?」

〔異世界、とは一言も言っていませんよ?〕

「うわ……詐欺やん」

〔ですが、現代社会から太古のロマンあふれる地球に転生するなんて、むしろFairy Taleフェアリー・テイル、おとぎ話の様なものって事でここはひとつ……〕

 ……ったく『ここはひとつ』じゃないだろ。酔っぱらった中間管理職のおっさんかっての!

〔ところで、八白亜紀。たまに変な関西弁が混ざるのは何故でしょう?〕

「あ……それはアレだ、うん……その……」

 ウチくらいの世代なら多分みんな経験がありそうなんだけど。『お笑い芸人の影響です』なんて愚にもつかない理由だったりするんだよな。

「そ、それがウチのアイデンティティなんや!」

〔そうだったのですね。お笑い芸人の真似しているのだと思っていました。大変失礼いたしました〕 

 ……女神さん変なとこで鋭いな。


〔それでは、頑張ってくださいね~〕

「っておい、異世界詐欺はどうなって……って、逃げやがったか」

 なんか勢いで誤魔化されてしまった。太古の地球って事は、街も人も文化も存在しないって事になるけど……マジか……。

「ウチ……生きていく自信がなくなったのですが」

 流石にゼロ文化の世界なんて、一人でどうこう出来るレベルの話じゃないぞ。なんかもうショックがデカすぎて、何をすれば良いのか判らない。

 とりあえずその場に腰を下ろして、チョコを二つ三つまとめて頬張ほおばる。こういう時は、脳にブドウ糖を補給せねば!

「こんな時でも喉を通るんだな……」


 しかし、マジで異世界転生じゃないのか。“魔法どーん”とかやって『ウチ、何かやってしまいました?』って言ってみたかったよ。

 それにしても、さっきから後ろでグルグル喉を鳴らしているヤツがいるのだが。 

うるさいわマジで。ウチはハートブレイク中なんだ、そっとしておいてくれ。ったく、誰だよ。



 

 …………ティラノサウルスでした。






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キャライメージ画

八白亜紀→https://kakuyomu.jp/users/BulletCats/news/16817330652571711525


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