第58話・Past Story アンジュラ⑤
もうこの場において遠慮も考慮もなにもいらなかった。およそ思いつく魔法が無制限に手や剣から放出する。
カーペットや装飾布を消し炭にする爆炎。
取り巻きどもを薙倒し抑えつける暴風。
壁や床を粉砕破壊する鋭氷。
殺しはしない。だが許す気もない。斬りかかってくる衛兵は全て、剣を持つ腕を“切り落とし”無力化する。出血は自分でなんとかしてくれ。
天井も壁も床も目に見える物すべてに魔法を撃ち込み、この不快な空間を破壊し尽くした。
一時間も経った頃だろうか、私は修復不可能なまでに破壊した城を後にしていた。 もちろん追手はいない。まあ、出せないだろうね。
ヒゲが『勇者の血を持つ者』と言っていた。もし召喚される者の力が“血筋の影響”を受けるとしたら……めちゃくちゃ可能性は低いだろうけど、愛希がどこかの国で召喚されるかもしれない。それに、他国では元の世界に転移する魔法が存在する可能性は否定できない。
仮定だらけの楽観的思考だけど、とにかく希望は捨てずにおこう。
……今迄もそうやって来たんだ。
だけど、私はなぜあのとき迷ったのだろう? 妹が可愛い。私はシスコンだ。いつもそんなことを
結局私は、我が身が一番かわいいのか?
情けない。こんな姉に愛想をつかしたかもしれないな……
それでも、次に愛希に逢う時までに答えを出しておかないと。自分のけじめとして。
……でなきゃ向き合えないよ。
そして私は、妹が転移する僅かな可能性を考えて『アンジョウ・アキ』と名乗ることにした。この世界では和名の響きは結構珍しい。だから、どこかの国で妹の名前を聞いた人がいれば、同姓同名の私に反応するかもしれない。そしてそれは、もしかしたら今ではなく“五年後、十年後”に召喚されるのかもしれない。
だから、魔王討伐をする。この名前を売るために、この先何十年と名前を残すために! 徹底的に潰してやる!
その為の努力は惜しまなかった。陸上のレギュラーだって努力で勝ち取ったんだもの、それとなにも変わることはないだろう。
剣術で勇名を馳せた達人の元で何カ月も剣を握り続けた。伝説と言われる程の魔術師に師事し、神羅万象を知った。
おかげで、この世界で最強とされるラグナロクやレーヴァテインと言った魔剣を難なく扱うことが出来たし、
……手の平はつぶれたマメだらけでゴツゴツになってしまったけど。
やがて私の名前は、その世界の人が馴染みやすい『アンジュラ』という響きで伝わる様になった。最初の頃は逐一「アンジョウです」と訂正していたけど、途中から面倒になってアンジュラ・アキって名乗る様になった。
「どうせ愛希の方も、そう呼ばれることになるだろうし」
魔王討伐してからも各国を放浪し続けて、十年位経った頃だろうか。それなりに成長し、身体能力も魔力も充実しきっていた。
そんな折、この世界の転移魔術なんか目じゃない程“あの日”に戻ってやり直せる有力なチャンスを得ることが出来た。
――俗に言う、異世界の神が私に語りかけて来たんだ。
どうやら私が倒した魔王が復活して、太古の地球に乗り込もうとしているらしい。それを阻止してくれ、と。
ならば、今からまた魔王城に行って潰してくると言ったんだけど、どうやら神さんの思惑では“二度と地球に乗り込む気を起こさせないために”地球で迎え撃って、完膚無き迄叩き潰して欲しいそうだ。
地球の、それも“任意の時間に転移が出来る”という力。それを持つ神からの依頼。断る理由はなにひとつなかった。
依頼受諾の報酬として、この世界につながるフード付きジャケットをもらっておいた。マジックアイテムを取りだせればなにかと便利だろう。
そして、ミッションコンプリート時の報酬を聞かれた。『返事は今でなくても良い』と言っていたけど、私の願いは一つしかない。
それはもちろん……
――――――――――――――――――――――――――――
ご覧いただきありがとうございます。
この作風がお嫌いでなければ、評価とフォローをお願いします!
☆とかレビューもよろしければ是非。
この先も、続けてお付き合いください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます