第45話・うずうず

 まったく、なんで初代はつしろ新生ねおはこんな性格なんだよ。こいつには協力するって選択はないのか?


「ふむ、なにやら面倒な事情がありそうでござるな」

「ん~、『ありそう』ではなくて『ある』んだよ、面倒過ぎる事情がさ」

「だが勝負は勝負。次は拙者の番でござる」

「これも奴隷をかけるとかのルールなのか?」

「む、無論。……我ら魔王軍の目的は地球の破壊。この世界の崩壊でござる」


 ……難しい顔でそんなこと言われてもな。悪党らしさがないんだよ、このヒトは。


「なあ、ドライアド。先にちょっと聞いていいか?」

「なんでござろうか」


 さっきから妙に引っ掛かるものを感じて、ウチは鎌をかけてみた。


「地球を滅ぼせってのは、魔王の勅命なのか?」

「……?」


 黙ったままのドライアド。目が泳いだと思ったら、口に手を当てながらウチを凝視してきている。多分言葉を選んでいるのだろう。この沈黙は意味がある。ウチはそう踏んで、もうひとつ鎌かけをしてみた。


「……なるほど、わかった。アンタさ、本当は戦いたくないんだろ?」

「な……なにを言うのでござる……」


 ――この動揺の仕方、ビンゴか。


〔そうですよ。なにを言うのですか、八白亜紀。凶悪な魔王軍なのですよ〕

「女神さん、その先入観がそもそもの間違いだと思うで?」


 少なくとも目の前の魔族・ドライアドは人間的な思考をしている。部下のことを思って敗北を受け入れたり、勝負にかけている“奴隷”だって、命を取ろうという話ではない。……まあ、一生奴隷とかたまったもんじゃないけど。でも、滅ぼすと言いながら命を取ろうとしないその言動には、矛盾と言うかズレみたいなものを感じてしまう。


「これは多分、なんだけどさ。アンタの中にある魔王像と、今回の命令にズレがあるんじゃないか?」


 これはウチの勘みたいなものだ。口では悪党みたいなことを言っているけど、どうもこのヒトには似合わないんだよね。命令で仕方なくやってる感とでも言えばいいかな。


〔八白亜紀、それはどういう意味です?〕

「このドライアドが知る魔王は『地球を滅ぼせ』なんて命令を下す様なヤツではないってことだ」

「そう……かもしれないでござる」

「かもしれない、というと?」

「確かにこの作戦指示は、幹部から勅命として降りて来たものでござる。拙者が直接、魔王様より下知げちされたものではござらん」


 やはりか。先ほどドライアドが沈黙したのは、ウチの鎌かけで“そこ”に考えが行きついたのだと思う。そして敵であるウチに指示系統を明かしたということは、かなりの高確率で『その幹部が勝手な指示を出しているのかもしれない』と疑い始めたってことだ。

 魔王トップを利用してなにか良からぬことを画策する幹部。いろんな物語でやりつくされた図式だ。まあ、だからこそウチでも予測が出来たんだけどね。


 ちょっと卑怯なやり方だけど、このままその幹部が悪者だという話に持って行こう。そうすることで、この場は戦わずに解決できるかもしれない。


 ……って思ったんだけどさ、ここで初代新生並みに面倒な奴が覚醒してしまったんだ。

 

「ちと待ちや。ワイもやるで!」


 いきなり砂の中からテンション全開で起き上がったインプ。……滅茶苦茶バッドタイミング。


「あ、え~と君は……砂にめり込んで気絶していた君?」

「なめとんのかワレぇ。インプ様や! いきなり後ろからどつきおってからに。許さへんで、だほが!」


 これまたやかましいヤツだな。 


「ふむ。しかしインプ、お主は自身の気のゆるみから倒されたのでござる。負けは負けだ。認めよ」

「ああ、いや、いいよ。さっきはこっちの条件飲んでもらったからさ。もっかい二対二でやろう。ただし……」


 ウチは目いっぱいの笑顔で、ドライアドにサムズアップしながら言葉を続けた。


「勝負の勝ち負けに生死や奴隷をかけるのは無しだ。純粋に勝負しようぜ!」


 インプの復活を認める代わりに、勝負に命や奴隷を賭けない。ドライアドにとって最も好ましいと思える条件だ。多分彼は承諾するだろう、部下の安全が保障されるのだから。そして戦う事で魔王軍としてのメンツも保てる。


「承知した。お気遣い感謝いたす!」


 めっちゃ清々しい表情のドライアド。『感謝いたす!』なんて、普通敵に対して言えないぞ。


〔八白亜紀、またあなたはそんな事を……〕

「さっきはこちらの負けだった勝負を再戦させてもらったんだ。その分の恩義は返す。それが敵でもだ。筋は曲げたらダメだろ」

〔まったく、言い出したら聞かないし引かないし曲がらないしで、ほんっと心底厄介な性格ですね〕

「お、女神さん、やっとウチのことがわかってきたじゃん」


 それにしても、このドライアドは理性的に話が出来る相手だ。後でちゃんと対話が出来る様に、正々堂々、後腐れなく戦わなきゃだな。


「亜紀っち……ここは俺様の出番でいいんだよな?」

「そう言うと思ってたよ、ティラちゃん」


 ……さっきからうずうずしてたのが手に取る様にわかってた。全快とはいかなくても、十分動ける位には回復している感じだ。


〔大丈夫なのですか? 先ほどは攻撃が当たらなかったのですよ?〕

「大丈夫……だと思う。信頼するしかないじゃん? 本人がやる気なんだから」


 それになんか、ウチの意思がティラノとリンクしている気がする。でも初代新生のライズが切れてる感じはしないんだけど。良くわからんが……大丈夫だ!


「ガイアちゃん、初代新生そいつがなにかしようとしたら、虹羽根アイリス・ウイングでぶん殴っていいからね!」

「まかせとき!……ギッタギタにしたるわ。デス」


 そのセリフを無表情で淡々と言われると結構怖いのだが。……何気に君も頭に来ているのね。


「——よろしく頼むぜ、タルボ」


 ティラノが進み出てタルボと並び立った。なんかいい光景だな。これで平和だったらなにも言うことないんだけど。


「ドライアドさん、でしたわね。わたくしがお相手させていただきますわ」


 得物のバトルハンマーをズシリと肩に乗せ、正面から宣戦布告するタルボ。


「なら、ワシの相手はさっきの扇風機ねーちゃんかい。ぶんぶんぶんぶん木刀振り回してからに。涼しかったわ、ほんま」

「へっ、砂まみれの顏でドヤってんじゃねぇよ!」


 

 あの~、ティラノさん。……ウチもついさっき、砂まみれの顔でドヤったばかりなんすけど。 






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