第44話・知識の元
「では、再開いたす!」
「うおっしゃ~! おらぁ~~~、はっ倒すぞぉぉうぉおおおおおおおおおお! 覚悟せぇやおらぁ~~~~あqwせdrftgyふじこlp~~~~~‼」
合図と同時にウチは、頭上で木刀を大げさに振りまわりながら……自分でも何を言っているか分からない叫びと共に、セイレーンに向かって走り出した。たった今、氷の槍でガイアが大ダメージを負ったばかりだ。だからセイレーンは、『魔法を警戒して距離を取ってくる』と考えただろう。しかし、防御を捨て攻撃する気満々で突っ込むウチをみて、セイレーンは慌てて氷の盾を作りだしていた。
「食らえ、ティラノ直伝、ジュラシック最強の技! レックス……」
「え、亜紀っちが俺様のスキルを?」
……そんな訳ないって。
戦闘力ミジンコのウチでも出来る戦術。それは、相手を攪乱し思考停止させる“口から出まかせフェイント”。漫画やアニメを始め、映画もゲームも戦略戦術の宝庫だ。伊達にオタってたんじゃない、今こそ数々の知識を活かす時だ!
「——これがウチのサブカル戦術やで!」
ウチは攻撃を仕掛けると見せかけて、セイレーンの目の前で後方宙がえりをした。
「え、なんですの⁉」
セイレーンが驚くのも無理はない。一瞬前までウチがいた場所にはケーラが盾を構えて突進して来ていたからだ。氷の盾はケーラの超重量級シールドチャージに砕かれ、セ―レーンは数メートル後ろに弾き飛ばされた。
「ナイス、ケーラちゃん!」
――しかしその直後、頭上からハーピーの羽根矢が襲いかかる。
「残念だったな、ハーピー。その魔法はすでに対策済みだぜ!」
後方宙返りをした時、ウチはケーラの背中を足場にして飛び上がっていた。そして“シュババババッッ”と襲い来る魔法の羽根矢を、“パリンパリンパリン…”と猫人の魔法耐性でかたっぱしから打ち消した。
「魔法が効かないってわかっていても、怖いもんは怖えぇな」
なんかこう、目にサクッときそうで開けていられなかったのは内緒だ。そのまま空中で宙返りして、スタッと着地。猫人の高スペックな身体能力がここで活きた感じだ。
「さあ、どうする? セイレーンは行動不能、君の攻撃はまったく効かない。このまま続けるかい? こっちは二人して寝転がっててもいいんだぞ?」
と、まあ、これはブラフだけど。この作戦は、一方的に力を見せつけて相手を“負けた気にさせる”というやり方。今のハーピーは“ケーラにも羽根矢が効かない”と思い込んでいるはず。こういうのって、こちらのペースに乗せれば意外と簡単に引っ掛かるもんなんだよね。もちろん知識元は以下略。
「ウチ達は君を撃ち落とすことは出来ない、遠距離攻撃がないからね。でもさ……」
ここで言葉を貯めてから、少しだけトーンを落として話を続ける。
「仲間を放っておくのかい? 全身をかなり強く打っているんだ。骨が折れていたり、呼吸が出来ていないかもしれない。君がそのまま飛んでいるだけで、セイレーンは苦しみ続けるんだよ?」
こちらは本当の話。嘘を言う時は真実を混ぜる、これが基本なんだ。もちろん知識元は……。
「ハーピー降りてこい。おぬしらの負けだ」
「……わかった。セイレーンは無事なの?」
「お主が看てやってくれ。……それにしても見事にやられ申したな」
ふう、助かったわ~。なんだかんだ言っても、セイレーンの容態が心配だったんだよね。ケーラの攻撃がクリーンヒットしていたからさ。決断が早い敵リーダーに助けられたな。
それにしてもこのドライアドは“潔い武人”と言った印象だ。ミノタウロスと少し似てる感じがする。
――その時、突如として初代新生の声が響いた!
「ケーラ、いまだ!」
背中を向けたら初代新生は攻撃をして来る。それはもう当たり前くらいに思った方がいい。それに備えてウチは、前もってガイアの
――それに今回はもう一人、初代新生の攻撃から守ってくれる
他でもないケーラだ。ウチがなにを言ったとしても、ライズ・マスターである初代新生の命令の方が優先されてしまう。しかし彼女は突進攻撃が当たる瞬間、そっとウチの背中を押してダメージを軽減してくれていた。
突進は命令で行ったが、それ以外はケーラ自身の意思で行動してくれたのだろう。状況をきちんと判断出来るいい娘じゃないか。
……と、いう訳で。
「効かぬ、効かぬぞ! 初代新生、お前の卑怯なやり口はわかっているんだよ!」
突進され、転がりながらも颯爽と立ち上がり、砂だらけの顏で初代新生を“ビシッ!”っと指さし、言い放った! ドヤってやった! むふっ、スッキリした~。
……でもさすがにちょっと背中痛いわ。
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