第47話・ミス

 ウチはタルボに“目をつむる”様に伝え、続けて指示を飛ばした。女神さんは『わざと負ける気ですか⁉』と驚いていたがとんでもない。——これは勝つための戦術なんだぜ。


「タルボちゃん、右前方!」

「無理無理、あたらへんで♪」 


 空振り……方向はほぼあっているが間合いが取れていない。


「左に一歩、横薙ぎ!」


 ああ、惜しい。かすった感じか。


「うほっ! あぶねぇ~。だが、当たらなければどうということはないんやで!」


 そう、当たらなければ意味がない。そんな事はわかっている。むしろ今やっているのは、当たったらラッキーな攻撃。 


 ――そして狙いはここ。最初からここなんだ! 


「タルボちゃん、足元! 全力で叩いて!!」

「いやいや、当たらへんで~。今日からワイのことは赤い彗……って、なんや、足元?」

「食らえですわ! レックス・ディヴァステート!」

「お~、なんかカッコいい技名じゃんか。意味わからんけど」

〔devastate、壊滅・荒廃と言った意味ですね〕


 ウチのポケットで白黒のジュラたまが強く光り、タルボの大地をえぐる破壊力の技が砂浜に叩きつけられた。大量の砂が飛び散り、舞い上がり、インプの視界を遮る。これは砂中で爆発が起きたような現象だった。


「ぺぺっ……何してくれんのや、口の中まで砂だらけや。まったく、砂もしたたるいい男になってしまったやないか! これ以上モテたらどないすんじゃ、ほんま……」


 ――ヒュンッ


 その時、インプの煽り文句が途切れた。……そして舞い上がった砂が雨の様に降り注いでくる。砂が降りきった時にはすでに、インプはタルボの足元に倒れて砂をかぶっていた。


「あら、ごめんあそばせ。そのまま大地の栄養になってくださいまし!」

「いいねいいね! タルボちゃんかっこい~!」


 ウチがタルボに目をつむる様に指示した理由は二つ。一つはインプの幻影魔法にかからない様にする為だ。最初から見なければ幻影も見ないで済む。その分ウチが正確に攻撃位置を知らせればいい。二つ目は自身の攻撃による爆発的な砂塵が目に入らない様にする為だった。 

 それにしてもティラノとの連携もバッチリだし、凄い戦力だわ。インプの奴、どうやって自分が倒されたかわかってないだろうな。


「くそっ! おいコラ、一体何があったんだ!」


 初代新生のやつ、ティラノとタルボの超カッコイイ所を見ていなかったのかよ。まったくどこに目を……


「って、またなんかしようとしたんか~」  


 そこにはガイアの虹羽根アイリス・ウイングで思いっきり潰されてる初代新生がいた。何枚も何枚も上に重なり全く身動きが出来ない。這いつくばったままプルプル震えて、なんか産卵時のカメみたいだ。


「ふむ……。してやられたのはこれで二度目か」


 ドライアドは刀の切っ先をウチに向けて言葉を続けた。


「成程、真に警戒すべきはお主であったか。ア…… アク…… ア~…… え~と……」

「あ、ドライアドってばウチの名前覚えてねぇな」

〔八白亜紀、あなたがアクト・スノーなんて名乗るからです〕


 しかたがないなぁ、もう。


「もう一度だけ名乗ってやろう。ウチの名は八白亜紀、この世界の守護神や!」


「ふむ……八白亜紀殿でござるか」


 そしてウチはドライアドを“ビシッ”と指差し言葉を続けた。


「そして、我が盟友であるそこの者どもは一騎当千。我が戦術と猛者達の力が掛け合わされば今世紀最大のジュライチパワーや。お主に勝ち目はないと知れ!」

「確かに、この二人の力量は恐ろしく高い。先ほどのインプを倒した手腕も見事であった。だが、拙者とて引けぬ訳があるのだ!」


 ……マジで純粋な勝負って条件にしておいてよかった。ドライアドとはわだかまりを残さずに終わらせたいって心底思う。


「それに、久々に楽しいのでござるよ。さあ、双方とも遠慮せずに参られよ!」

「じゃ、ドライアド。すまないけど二対一のままやらせてもらうよ。さっきも言ったけど正義の味方じゃないんだ、多少汚くても勝つためにはなんでもやるで!」


 ……と口では言うものの本当に汚い手を使うつもりはない。そしてそれは、多分ドライアドも理解してくれているように思える。だって、その一言を聞いて笑っていたもの。


 構え直すドライアド。それに呼応し、ティラノ達も構える。ここからは数的有利な闘いだけど、そもそもドライアドは一人で戦うつもりでいたのだし、対等に戦える自信があるってことだろうな。

 

 ――常にティラノを剣先に捉えつつ、タルボを警戒するドライアド。

 ――ジリジリと間を詰め、闘気オーラを放つティラノ。

 ――プレッシャーをかけ、ドライアドの動きを抑え込むタルボ。


 一触即発とでも言うのだろうか、三人の間には今にも破裂しそうな空気があった。



「ドライアド様、セイレーンが!!」


 しかし、その均衡を破ったのは意外にもハーピーの叫び声だった。その場の全員が声の方を向く。

 ケーラの体当たりを喰らったセイレーンは、思いの外ダメージを負っていたみたいだ。ぐったりして意識がなかった。


「そうか、しまった。ケーラちゃんは……」


 これはマジでやらかした。ウチのミスだ。タルボ達はウチの意思を受け継いで『敵と言えども殺さない』って考えてくれているけど、初代新生の恐竜人ライズであるケーラにはその意思は伝わっていなかったんだ。

 むしろあいつの考え通りだと、相手を殺す事を前提としているのかもしれない。そう考えた時にはすでに、ウチはセイレーンの所へ走り出していた。






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