第41話・危うく、納得!

「なんだコイツ? 全然当たらねぇ!」

 ティラノは、“羽の付いた子供みたいな敵”に苦戦を強いられていた。動きにキレがなく、まったく攻撃が当たらない。あれでは無駄に体力を消費するだけだ。

「……なあ、女神さん。ウチの恐竜人ライズじゃなくてもチョコで体力回復するのかな?」

〔わかりません、こればかりは前例がないので〕

 単に体力が落ちているってだけじゃない様に見えるけど、少しでも回復すればティラノなら何とかしてくれると思う。


 しかし……。


「ふざけんなティラノ、ちゃんと当てろよ。最恐の癖に役に立ってねぇじゃねえか!」

 初代新生の怒鳴り声が聞こえてきた。動きの悪いティラノに相当イラ立っているみたいだ。それでもあの一言は、やってはいけない最悪の一手。


 ……味方の心無い言葉が、後ろからの攻撃になるって知らないのかよ。


「こいつ、目ぇ開いとんのか? ブンブンブンブンやかましいわ~!」

「インプ、遊んでないでさっさと終わらせるでござる」

 なるほど、あのちっこい関西弁は小鬼インプか。幻惑系の魔法を主に使い、それでいて素早いモンスター。ティラノやルカみたいなパワーファイターでは相性が悪すぎる。

 そして『ござる』って言ってた奴がリーダーっぽいな。着流しに日本刀を差していて、微妙に和風な感じだ。全身が樹木のモンスターってことは、たしか名前が、ドリ……ドラ……ド~……なんだっけ。


「なんや、もうちょい楽しめる思うたのに期待外れやな。ま、悪ぅ思わんといてや」

 インプは呪文を唱え、手の中に光の弾を作り出した。『バチバチッ』という音と共に出現した魔法球は、明らかに雷系統の魔法だ。ティラノは木刀を構えるが、当然、魔法に対して役に立つはずもない。……そして、インプの手から雷が放たれようとしたその時! 


 ――バゴンッ!!!!


 ガイアの虹羽根アイリス・ウイングが蠅叩きの如く、インプを後ろから叩き落としていた。“ドサッ”という音を立てて、顔から砂浜にめり込むインプ。

「ナイス、ガイアちゃん!」

「亜紀っち!」

「大事なうちの達を傷つけられては困るんでね。悪いけど後からやらせてもらったよ」

 足元で気絶しているインプをみながら、敵リーダーが口を開く。

「卑怯な……」

「卑怯でもなんでもええ。別に正義の味方じゃないんだし。つーかさ、こんな時代に来て生き物絶滅しようとするアンタ達は卑怯じゃないんか?」

「……我々は良いのでござる。魔王軍ですからな」

「うわ……なにそのパワーワード。危うく納得しかけたわ~」

〔納得しないでください〕

 しかしちょっと違和感。このリーダー、『魔王軍だから卑怯なんだ』という意味の事を言いながら、少し後ろめたさを感じている様な表情だ。本人の意図するところではないという事なのだろうか?

「お主、何者でござる?」

「お、それ聞く? 聞いちゃう? 仕方ないな~」

 少し斜に構え、ピッと立てた親指で自分を指し……

「ウチは八白亜紀。このジュラシック界を守る勇者だ! エンペラー・アクトスノーと呼びや!」


 し~ん……と静まり返る一同。よせては引く波の音と、潮風になびく木々の音だけが聞こえてくる。


「ふっ、恐れ入って言葉もないみたいだな!」

〔またもや呆れているのですよ、アクトスノー様。はぁ……。それよりも後ろに気を付けて下さいね〕


 背中に刺すような視線を感じて振り返ると、初代新生がウチを睨みつけていた。……これはむしろ殺気だな。 

「おい、初代新生。嫌だけど助けてやる。這いつくばって感謝しとけ!」

「あぁん? てめぇ何ふざけた口きいてんだよ!」

「負けてる割には元気だな~。おまえ、実はM属性マゾだろ」

「八白亜紀、てめぇ……」

「今はオマエの相手している場合じゃないっての。タルボちゃん、ティラちゃんのフォローに入って!」

「わかりましたの!」

 タルボは魔王軍とティラノの間に立ちふさがり、小さい体ながら目いっぱい両手を広げて敵の行動を抑制した。それに呼応する様に、ガイアの虹羽根アイリス・ウイングがタルボの左右に展開。これは他の恐竜人ライズ達を守る為の盾なのだろう。


「ティラちゃん大丈夫?」

「ああ、何かわからんけど身体が重いだけだ」

「効果あるかわからないけど、チョコこれ渡しておくよ!」

「ありがてぇ。恩に着るぜ、亜紀っち」

「いや~、マ……マブじゃんか、ウチらは!」

 うわ、いまだに恥ずかしいな、マブとか口にするのは。

 体力の消費がよほど激しかったのだと思う。ティラノはチョコの箱を開けると、そのまま一気に口に流し込んだ。

「あれ? チョコって飲み物だっけ?」

 ……流石に十二粒丸呑みは人間技じゃないぞ。


「タルボ、てめぇ、何してやがる……」

「はい? あんたが捨てたんでしょ? ボロボロの傷だらけにしてさ。ガイアちゃんが見つけてくれなければ死んでたよ、マジで」

「クソっ、ゴミが……」


 ――まだゴミとか言うのかこいつは。


「初代新生、お前な……」

「あら、新生さんではございませんの。気が付かなくて申し訳ないですわ! 踏まれたプリンの様に這いつくばっているから見えませんでしたの。おほほほほ!」

 怒りに任せて反論しようとしたら、タルボの一言がカットイン! 煽るねぇ、例えは滅茶苦茶だけど。


「……おぬしら、魔王軍我らを無視して無駄口叩いているんじゃあない!」

「うっさい! そこの踏まれたプリン見て危うく納得しとけ!」






――――――――――――――――――――――――――――

ご覧いただきありがとうございます。

この作風がお嫌いでなければ、評価とフォローをお願いします!

☆とかレビューもよろしければ是非。

この先も、続けてお付き合いください。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る