第24話・Raise your flag

 隙間なくびっしりと生えている樹木。太陽の光が全く差し込まず、薄暗くジメジメしたこの場所で遭遇した猫耳転移者。濃紫のジャケットにピンクのロングヘア。そして真っ黒の腹の中。

 彼女は仲間として白亜紀ここに来たのではなく、魔王軍討伐のライバルとして降り立った。つまりウチとは違って、来る場所も目的も最初からわかっているという事。

 そして口にしていた『クリア報酬』というひと言。魔王軍を倒せば報酬が出るというのは想像出来るけど、こんな場所に来てまで欲しい物って何だろうか……?





「こらこらこらこら、だから全裸やめって!」

 突然脈絡もなく、特攻服を脱ぎ始めたルカ。

「上着だけっスよ、姐さん。今から戦うのに全裸になる訳ないじゃないっスか」

「え~。隙あらば脱ぐスタイルなのかと思ってたよ。……なんだろう、この敗北感は」


 脱いだ特攻服を丁寧にたたみ、『頼みます』と、そっとウチに手渡すルカ。意外と言ったら悪いけど、彼女には“上着を脱ぎ捨てて戦う”みたいなイメージがあったんだ。


 以前観たアメリカの動画でものすごく印象に残っている物がある。風にあおられて地面に落ちていた星条旗、それを見つけた退役軍人がとった行動だ。拾い上げて丁寧にたたみ、その家の軒下にある宅配BOXの上にそっと置いた。——地面に直接触れない様に。

 そして最後に……星条旗に敬礼をして去って行った。


 その人は自分の国に誇りを持ち、国旗にまで敬意を表していたんだけど、ルカの行動を見ていたら、何かそれに通じるものを感じたんだ。このティラノとおそろいの特攻服は本当に大事な物、ルカにとっての“掲げるべき旗”なのだろう。

 

 

「よっしゃ、準備完了! タルボ、悪いけど本気マジで行かせてもらうっスよ」


 トントンッと軽く二回ほどステップを踏み、右脚を引いて構えながら拳を握り込むルカ。この辺りが薄暗いせいもあるのだろう、右拳に巻かれている鎖からはビリビリと雷の光が見えた。

 対するタルボが持つのは、身長と同じくらいの長さのあるバトルハンマー。破壊力はかなりありそうだけど……しかし、武器を構えようとする気配すらなかった。闘争心というか、戦おうって感じが全くしない。ウチがそう感じるくらいだから、ルカはもっと違和感を覚えているのだろうな。

「姐さん、どうしましょうか?」

「とりあえず、あの子は出来るだけ傷つけずに、敵のボスだけを狙って無力化しよう」

「了解っス!」

 あの覇気のなさはむしろ異常だよ。怪我している訳でもないし。もしかしたら……。


「タルボ、さっさとやっちまいな!」

 黒っぽい猫耳転移者――猫耳ブラックとでも呼ぼうか。アイツに言われるがまま、特に攻撃を繰り出す訳でもなく突っ込んでくるタルボ。なんと、得物のバトルハンマーをその場に置き、非武装の状態だ。

 これに一番意表を突かれたのはルカだったと思う。多分頭の中では、振り降ろされるハンマーを紙一重で避け攻撃に転じるとか想定していたのかもしれない。

 しかし、小柄なタルボのタックルはそれほど突進力がある訳でもなく、ルカは労せずして受け止める事が出来た。

 ――そこにウチとルカの誤算があったんだ。タルボはそのまま腰に腕を回すと、ガッチリとルカにしがみ付き放さない。


「くっ、重いっス」

 タルボに下半身を押さえつけられているルカ。『重い』と表現されたその力は、単に捕まえているだけでなく、しっかりと押さえつけていると言う事だ。その小柄な身体からはとても想像が出来ない力で、ルカは機動力を封じられてしまった。

「侮っていたわけじゃないっスけど……」

 ……予想以上だった、と。


「アクロ、スピノ、行け!」

 猫耳ブラックの命令で左右から飛び出してきた二人の恐竜人ライズ

「え、まだいたのか……」

 タルボに戦闘意思を感じなかったのは、そもそも戦うつもりがなく、ルカを動けなくするための役割だったからって事なのか。

 ルカの左側から杖の様な物で殴りかかってきた猫耳ブラックの恐竜人ライズ。その攻撃を両手でガッチリと受け止めるルカ。

 彼女のフィジカルがジュラシック最恐のティラノと同等だとしても、三対一ともなると流石に対応しきれなくなる。両手がふさがっているルカに攻撃を仕掛ける三人目の猫耳ブラック恐竜人ライズ



 ――これはヤバイ! と感じたその瞬間、ウチの身体が勝手に動いたんだ。恐竜人の力に猫人が対抗できるわけないのに。 


 好きだったゲームの中で言っていたんだ。『誰かを助けるのに理由がいるのかい?』リアルで一度言ってみたい言葉No.1に選ばれた伝説的セリフ。今のウチはまさしくこんな感じだった。

 正直、結構ヤケでやったと思う。猫人の瞬発力を活かして一気に加速し、ジャンプと同時に足を手で抱え込み前方回転! 丸まった猫人ウチが弾となって右から来ている恐竜人ライズに一直線だ。流石にこれは想定していなかったのだろう、防御が間に合わず猫玉ねこたまアタックがクリーンヒットした。


「姐さん、やるっスね!」

「おうよ、まかせろ!」

 うわ……良かった……死ぬかと思った……冷や汗すげー。滅茶苦茶ドキがむねむねしてるわ。……ヤバイ、マジヤバイ。震える手でサムズアップしてひきつった笑顔で答えてみたけど……バレたかな?

 そもそもウチは戦闘民族じゃないし、体動かすこともなかったからな。我ながら奇跡的な攻撃だよ。


特攻服これに勇気をもらったよ」

「姐さん……」

 絶対に汚しちゃいけないと思って、抱え込んだまま猫玉になっていたんだけど、それが気持ちの上でプラスに働いた感じだ。なんか上手く説明出来ないけどさ、仲間がいるって心強いって思えたんだ。

 

 なんてちょっといい気分に浸っていたら、妖精の形をしたイセカサギノメガサウルスがひと言。

〔八白亜紀、こういう時にジュラたまを使えば良かったのでは?〕



 ……あ、忘れてた。






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