第19話・牛道とは……

 左には濁った川。右には枯れ木と岩だらけの大地。大雨でもあったのだろう、所々水たまりがあって、地面には適度な水分が蓄えられていた。

 そして“二人”の巨大な恐竜がじゃれ合い、何度も何度も踏んで圧縮されガチガチに堅くなった地面に……ミノタウロスが埋め込まれていた。流石にこのままでは何も出来ないって事で、ティラノとルカで地面から引っこ抜いてみたんだけど……。

「あ~、完全に型取りされてるわ。石膏流したら等身大フィギア作れるぞこれ」

「なあ、亜紀っち。こいつ大丈夫なのか?」

「大丈夫だとは思うけど……魔族にもチョコって効果あるのかな」

〔やめなさい、八白亜紀。それは恐竜人ライズ用ですよ〕

「まあまあ、堅い事言わんと~」

 と、ミノタウロスの口にチョコを放り込んでみたのだが、恐竜人ライズ用と言うだけあって、魔族の体力は回復しない様だ。

 さて、これはどうしたら良いものか。普通に息をしているし単に気絶しているだけの様に見える。って事は何か“気付け”になる物があればなんだけど……。


「あ、そうだ。アレだ……」


 ウチは黄色い楕円形のアレを想像しながら、カバンの中に手を突っ込んだ。二~三回まさぐってみると、ひんやりと瑞々しいアレが手の中に納まって出て来た。そして今度はルカにパス。ティラノが桃を絞っている時、なんだかやりたそうな顔をしていたからな。

「ルカちゃん、それを直接口の中に絞り込んでやって!」

「了解っス。何かわからないけど面白そうっス~」

〔八白亜紀、本気ですか?〕

「もちろん。『寝ている人の口の中に梅干しを放り込むと奇声を発して起きる』って、田舎のばあちゃんが言ってたんだ」

〔八白亜紀、あなたの滅茶苦茶な思考は遺伝だったのですね〕

 ……ほっとけ。


 ミノタウロスの口の上で、ルカは思いっきり! 滝の様に注がれるレモン果汁。


「——っ」

 一瞬呼吸が止まったかと思うと、次の瞬間……

「ぐぼっふうぐぅえあぁぁぁぁ……」

 何を言っているのか聞き取れないような奇声を発し、ミノタウロスが覚醒した。転げまわり、悶えながら地面を叩いたりしている。

「まあ、レモン果汁直接絞ってんだ。そうなるよな」

〔……鬼ですか、あなたは〕

「でも、バッチリ目が覚めたみたいやで!」

 

 ゼイゼイと呼吸しながらなんとか起き上がったミノタウロス。その場に腰を下ろし、獲物の大戦斧にもたれかかっていた。

「なんか一瞬、天使の歌声が聞こえたぞ……ぶへっ……」


「よう、大丈夫か? すまなかったな、!」

「悪かったっス、!」

「うごっ……うむ……大事ない! うげっく……」

 大きな怪我もなく、ダメージと言えば気管に入ったであろうレモン果汁くらいか。しかし、擦り傷程度で怪我とか全くないって滅茶苦茶な耐久力だよな。あのまま普通に戦っていたら、ティラノでも倒せたかどうか……。

「敵に、ぶほっ……敵に捕らわれ施しを受けたとあっては一生のは……ぐへっ……恥。武士道に反することは出来ぬ……このまま首を刎ねるが良い」

「こらこら、そんな事言うもんじゃないぞ。女神さん喜ばすだけだけだわ」

〔本人も言っているのです。サクっと刎ねちゃいましょう!〕

 ……ホント物騒やで、この女神さんは。


「なあ、うっし~(ミノタウロス)

「ワシから魔王軍の情報を聞き出そうとしても無駄だ!」

「違うな、間違っているぞ、うっし~(ミノタウロス)。君は武士道じゃなくて牛道うしどうじゃあないか。牛として前に進む事だけを考えよ! 慌てずゆっくりでええ。牛歩でええんや!!」

「なんと……そうであったか。ワシは、ワシは牛道であったか!」


〔相変わらず適当な理論ですね〕

「で、でも……あの牛の人、なんか納得してますよ?」


 反則的な勝負だったとは言え、ミノタウロスにも思う所があったのだろう。負けを認めたところからの再スタートを決意したらしい。魔王軍の事を色々聞きたかったけど……彼の立場も考えて、二つ三つの軽い質問だけにしておいた。まあ、女神さんは怒っていたな。

 でも、今後は少なくとも無暗に敵として対峙する事はなさそうだ。魔王軍の一員という立場は変わらないけど、ウチとしては“話し合える相手”とは戦いたくないんだよな。

 ミノタウロスはラーメンで酔っぱらったリザードマンを肩に抱え、そのまま立ち去った……ティラノとの再戦を約束して。『約束の証だ!』そう言って赤いハチマキをミノタウロスに手渡すティラノ。これはもう、バトルマニアのさがみたいなものだろうか?


「さて、また魔王軍が来ないうちに、もうちょっと仲間を集めておかないとだな」

〔川の支流をさかのぼれば緑地地帯があるようです。そこなら何頭かいるかもしれませんね〕

 なるほど、水と緑がある場所なら恐竜も生息しやすいだろうし、ウチ達としても拠点にするには申し分ないだろうな。それに……

「上流の方に行けば水も綺麗だろうから、そしたら色々料理がつくれるぞ。パスタや白飯、甲州名物のほうとう!」

「亜紀っち、それって美味いのか?」

もちのロン(注)!」

「何かわからないけど楽しみっス~!」

〔あ、フライパンは出せますけど、火は自分で起こしてくださいね~〕


 ……やはりそうきましたか。






――――――――――――――――――――――――――――

※主人公:八白亜紀のセリフにおける、各キャラの表記について。

 キャラクターの性格上、魔族にあだ名をつけて呼ぶことがあります。(と言うか全員にあだ名をつけると思います)

 その為セリフ内での表記を【うっし~(ミノタウロス)】という様に、あだ名に括弧付きのルビで本来の名前/種族を記載する様にしています。


(注)もちのロン

 そのまま、勿論をばらしただけの言い方。昭和~平成にかけて良く使われていたと思われる。現在は死語としてネタ的に使う人もいる。


ご覧いただきありがとうございます。

この作風がお嫌いでなければ、評価とフォローをお願いします!

☆とかレビューもよろしければ是非。

この先も、続けてお付き合いください。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る